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〈朝鮮大学校のいま―祖国と世界の高等教育発展とともに―〉①インタビュー・若手教員らが語る教育改革

2024年04月20日 08:00 民族教育

時代を担う人材とは/主体的学習者、探究者を育む

今春に入学した新1年生たち(撮影=盧琴順)

初年度教育―。これは大学1年目の新入生を対象に施される教育をいう。一般に、初年次教育・初年度教育などと呼ばれ、いまや、日本のほとんどの大学でも、学習面における高校から大学への円滑な移行を図ると共に、学習者の人格的な成長を目指すうえで、その重要性が認識されつつある。

朝鮮大学校も然り。同大では、初年度教育の目的を、大学が掲げる「主体的(能動的)な学習者、探究者を育てる」うえで必要となる「基礎的な知識、スキル、態度」を備えることに設定している。これらがベースにあってこそ「汎用性」を培うことができる。

世界的な教育発展の流れに合わせ、より良い教育プログラムと教育環境を設けるための実践に励む同大の若手教員らに、近年導入した初年度教育の取り組みについて聞いた。

鼎談者

柳民範さん(教員5年目、教育学部助教、上越教育大学大学院修士課程修了)

陳泰駿さん(教員7年目、理工学部助教、東京大学大学院博士課程修了)

李玲実さん(教員4年目、外国語学部助教、一橋大学大学院博士課程在籍)

左から李玲実、陳泰駿、柳民範助教たち

Q.大学では、入学後、学部ごとに実施する「基礎演習」、全学選択科目である「討論演習」、「総合探究」など近年、新入生たちに対する初年度教育に格別な力を注いでいる。それぞれが担当する科目に関して詳しく聞かせてほしい。

:私と陳先生は2022年度からスタートした1年生対象(全学選択科目)の「総合探究」科目を担当している。「総合探究」は、大学が目指す主体的な学習者、探究者を育てるための第1段階として始まった科目で、学内教員からなる「初年度教育研究チーム」で検討され、実施しているものだ。

:外国語学部では、学部ごとに実施する「基礎演習」科目として、2022年度から4,000字レポートの作成指導を行う「基礎演習1」をスタートさせた。その背景には、さまざまな志向をもった学生たちが入学する中、外国語学部には「ただ英語を学びたい」「ウリについて学びたい」などの抽象的な学習目標を掲げる学生が少なくなかった。

そうした学生たちが、学習を通じて自身の世界観を形成するうえでの土台を作る必要があると考えた。一方で論理的に文章を構成する力が不足していると感じたため、この2点を補強しようと、「基礎演習1」が導入された。

Q.各授業の具体的な内容は?

:全学部の1年生たちが選択できる科目のため、授業中のグループはいろんな学部の学生らが交わる形で構成される。学生たちが、自らの問題意識に基づいて自力でテーマを設定し、解決し、その結果について検証する探究活動(課題設定、グループ討論、情報収集と整理・分析、レポート・論文作成、発表)の過程を通じて、さまざまな科学分野の知識を総合的に利用し、他者との協力を通じ探究を深めることができる。

一方で、学生たちが、探究者としての姿勢、多角的な視点を習得することを科目のねらいに定めている。授業中は、学生たちが主体となり、教員たちはあくまでアドバイザーとして、受講生たちの探究がうまくいくように導く役割を担っている。

:具体的には、あるテーマに基づいてグループワークをする。例えば「朝鮮大学校の魅力を宣伝するためには、どうすればいいのか」というテーマに基づき、学生たちが大学の長所や短所が何なのかについて、互いの問題意識を共有し、意見交換する。それを踏まえたうえで「大学の魅力を高めるにはどうすべきか」というような探究課題を設定し、グループ毎に情報収集と分析を経て、レポートをまとめ発表するといった内容だ。

「総合探究」は45分授業を全15回行う。授業時間と回数はそれほど多くないが、学生たちが自ら行う学習活動時間を重要視しており、またそれが、主体的な学習者・探究者になるうえでも関連してくる。「総合探究」は、そうした意味でも、学生たちの能動的な姿勢を培う点で意味を成している。

:「基礎演習1」の授業工程としては、ガイダンスの後、参考資料の読み方やレジュメ作成方法、要約文の書き方、レポート作成方法など学習方法全般の解説・講義を経て、討論、ポスター発表、グループおよび個別指導が通年で組まれている。

特徴としては、単に「3カ月間でレポートを書きなさい」といったものではなく、学生それぞれの疑問と問題意識を共有する場として、全体で「研究企画書発表」の場を設けていることだ。

レポート指導の際、学生たちに特に強調しているのは、「疑問」を持って事物現象について主体的に把握する(=問題意識を深める)こと。人文科学の場合、論文の序論でその点が強調されると思うので、学生たちが抱いた疑問と、なぜそのような疑問を持ったか、その背景について自身の言葉で説明し、文章を組み立てられるように指導している。

Q.そうした指導法は、自身の経験を踏まえた試みなのか?

:そうだ。自分は大学着任前から、朝大生や留学同の学生たちの論文をよく読んでいた。その際、同胞青年たちの問題意識がとても貴重で重要だということを感じ、それが広く共有されればと考えた。一方で、疑問を探すことは、大学での学習において基本となるが、難しくもある。その点、授業を通じた主体的な学習者としての姿勢を培えたらと考え、指導法を模索してきた。

Q. 近年、日本の教育現場でも、学習者の能動性や自立性を育てる教育が注目されている。

:私は教育学を専攻しているため、大学院課程でも探究型学習に関する研究をしてきた。世界的な教育発展の流れや日本の社会的傾向を踏まえ、「総合探究」のような科目は必要だと考えている。

Q. 学生評価はどのように行うのか?

:現在の評価方法としては、レポートの作成・発表を評価範囲とし、主に評価基準表(ルーブリック)を導入している。

:しかし主体的な学習者・探究者というとき、何をもって、それが達成されたのかを判断・評価するのかという点で、とても難しい。これは日本のみならず世界的にも、現時点で明確な答えがない。「総合探究」の評価については引き続き模索していく。

Q.各科目の導入による学生たちの変化は?

:学生たちがそれぞれに持つ問題意識について、日常的に互いに共有するようになった。例えば、学生寮に行くと、今までは生活的な会話がメインだったが「あのニュースについてどう思う?」といった会話が行き交っていたりする。

:私が受け持つ教育学部に限定するならば、レポート提出などの課題を出したときに、「総合探究」の授業を受けた学生が、より課題遂行力や文章の論理性に富んでいる傾向がある。

:個人的に初年度教育を通じて望む変化としては、学生たちが「正答」を求めるのではなく、自分なりの「疑問」を探し、その「答え」を追求していく姿勢が備わるようになることだ。大学での初年度に、自分なりの疑問を探し、答えを追求する姿勢をもつこと、言うなれば問題解決力をいかに育んだのか、という点での変化があらわれるようにしたい。

一方で強調したいのは、科学技術がめまぐるしく進化発展するこんにちでは、情報が過剰に溢れている。そうした現代社会で活躍するためには、自分が何に興味、関心、問題意識を持つのか、またそれをいかにうまく探し出すのか、といった力が必要になる。大学での初年度にそうした観点を養ったうえで、その後の学びを構築していくことが大事だ。

Q.3人共に朝大卒業生だ。自身の在学時と現在の変化は?

:教員の教えを全て真に受けて「正答」だと捉える学生が多いように思う。

:私も似たように感じることがある。そうした現状を踏まえると、いま行う初年度教育を通じて、学生たちに絶えず「疑問」を投げかけ、かれらが自力で考えるプロセスを設けることは重要だと考える。

Q. 初年度教育では、疑問を探す力を重要視するのか、または探し出した疑問そのものを重要視するのか?

3人:当然どちらも重要だろう。

:経験的に感じたことだが、例えば、朝鮮学校の学生数減少問題について問題意識を持つ学生がいた。その学生が探究過程で「社会的背景からみると、このように分析できるのか」と、問題を多角的に探究できるようになった。ここでの「疑問」そして「疑問を探す力」は、在学中もそうだし、卒業後も必要な視点であり姿勢だと考える。

:初年度教育は、第一に主体的な学習者・探究者を育てるためのもの。一方で、この教育を通じて、卒業後、自身を取り巻く場で何らかの「課題」を見つけ、それを「解決」する際にも生きてくる力になるはずだ。

:学習者としてだけでなく社会人として必要な力を蓄えるという観点でも重要だろう。

Q. 最後に、朝鮮大学校教員としてのやりがいとは?

:私が担当する教育学部は、直接、民族教育の現場に貢献する教員たちを育てるための学部なのでプレッシャーは大きい。一方で、学生たちの成長を日々目にしながら、かれらが今後現場に出て、民族教育を発展させてくれるという期待を感じるとき、それ以上のやりがいを感じる。

:人文科学を研究する一人として、在日朝鮮人をとりまく歴史的な課題、社会的な矛盾などについて批判的に検討できるという点で、朝鮮大学校でしか教えることができないものがあると考えている。なおかつ世界的な事物現象について探究できることは、大学が持つ学問的な価値だと考える。こうした点について、学生たちと共に討論し探究できることが、私のやりがいだ。

:教員生活で最もやりがいを感じる瞬間は、科学・学問を楽しんで学ぶ学生たちの姿を眺めるときだ。自分が大学教員を志した動機は、故・張炳泰前学長の科学の授業を受けたとき「こんなにも自然科学は面白いものなんだ」と衝撃を受けたこと。こうした経験を学生たちにもさせてあげたい。

そしてもう一つ、同じ志をもつ同世代の教員たちと共に教育活動に携われていることも、やりがいを感じる点だといえる。

大学の教育改革のために、今後も同世代の教員たちが一丸となり奮闘したい。

(まとめ・韓賢珠、朴忠信、李紗蘭)

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