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〈そこが知りたいQ&A〉朝鮮がSLBMを開発する目的は

2016年08月29日 14:22 主要ニュース 朝鮮半島

核戦争抑止の最終手段確保

朝鮮は戦略潜水艦弾道弾(SLBM)の実戦配備に向けた試験発射を続けている。SLBM開発の目的と現在の進展状況をQ&Aで整理した。

8月24日に行われた戦略潜水艦弾道弾(SLBM)の水中試験発射(朝鮮中央通信)

8月24日に行われた戦略潜水艦弾道弾(SLBM)の水中試験発射(朝鮮中央通信)

—朝鮮のSLBM開発はいつから行われているのか。

開発着手の時点は定かでないが、朝鮮の国営メディアは金正恩委員長が自ら発起し、直接指導を行っていると伝えている。

朝鮮中央通信が金正恩委員長の指導の下で行われたSLBM試験発射を伝えたのは3回。15年の5月、16年の4月と8月だ。その内容を見ると開発は国際社会の予想を覆すスピードで進んでいる。昨年5月に弾道ミサイルの水中発射に成功して一年も経たずに飛行試験段階に突入、今回の試験発射では「段階熱分離と操縦・誘導システムの信頼性、再突入弾頭部の命中度など弾道ミサイルの核心技術」が目標値に達したという。SLBMは∇地上発射 ∇水上発射 ∇飛行試験、それに続いて∇潜水艦から誘導システムを載せた弾&道弾を発射し、目標に正確に着弾させる試験を経て実戦配備される。朝鮮のSLBM開発は、その最終段階にあるといえる。

—金正日時代から大陸間弾道弾(ICBM)の開発は続けられてきた。既存の弾道弾とSLBMの違いは。

大雑把に言えば「ICBM+潜水艦=SLBM」となる。弾道ミサイルの技術自体は同じだが、強いて言うなら、ICBMの使用は先制攻撃を想定し、SLBMは報復用だ。海の中の潜水艦を完璧に探知するのは不可能だ。そこから発射される弾道ミサイルを迎撃する技術は確立されていない。SLBMが最強の兵器、最善の核戦争抑止力といわれる所以だ。核の先制攻撃によって相手国の核ミサイル基地をすべて破壊した後、第2波の攻撃を繰り出すという戦争計画は、SLBMという最終兵器によって封じ込められる。海から核による報復攻撃を受けるかもしれないという恐怖が先制攻撃の抑止となる。

現在も米国は、朝鮮の核施設への先制攻撃を想定し、実動訓練を繰り返しているが、朝鮮のSLBMが実戦配備されれば、核武力を動員する米国の侵略戦争シナリオは根底から崩れる。

-朝鮮のSLBMが太平洋の向こうの米国に対する戦争抑止力であるならば、それ相応の射程距離を実現しなければならないはずだが。

朝鮮のSLBMが米国の軍事攻撃を未然に防ぐようにするためには、「射程距離」と「潜水艦のサイズ」という二つの技術的問題をクリアしなければならない。今回のSLBM発射は、6月の中長距離弾道ロケット「火星10」の時と同じく、飛行距離を意図的に短縮する「高角発射」で行われた。90度に近い角度で打ち上げられ、1,413.6kmの高度に達し、400km前方に着弾した「火星10」の実際の射程距離は、米国の太平洋上の軍事拠点であるグアム島を越えているはずだ。今回発射されたSLBMは500km飛行したというが、最大射程距離はそれより長いと考えられる。朝鮮のSLBMには「火星10」と同じく固定燃料を使用する新型の大出力ロケットエンジンが搭載されているという指摘がある。

—「潜水艦のサイズ」に関する技術的問題はどうか。

朝鮮が発表したSLBM試験発射の公開映像を見る限り、発射管を1基だけ備えた中型の潜水艦が使われている。実戦を想定すれば、発射管を複数基を備えた大型の潜水艦が必要になってくる。また、米本土と海外の米軍基地に照準を合わせ、海中で長期間に渡り作戦を遂行するには、ディーゼルエンジンではなく、原子炉を動力としなければならない。他国でも、核搭載可能なSLBMは原子力潜水艦で運営されている。

朝鮮でもSLBMの実戦配備を想定した新型潜水艦の建造が進められている。これもまた、金正恩委員長の発案によるものだ。朝鮮中央通信は、SLBM試験発射成功に関する報道の中で、金正恩委員長が「強大な威力を持つウリ式戦略潜水艦の建造」を直接指揮していると伝えた。ここでいう「ウリ式」が何を意味するのか、国内外の注目が集まっている。

—米国や日本はSLBM試験発射が国際社会に「脅威」を与える「挑発行為」で、「国連安保理決議違反」だと非難している。

国防力強化は、主権国家の正当な権利だ。米国の核威嚇が続く限り、核兵器の運搬手段となる弾道ロケットの開発を続けるという朝鮮の立場は変わらない。

朝鮮が実戦配備を目指すSLBMの名称は「北極星(북극성)」。英語で表記すれば「Polaris(ポラリス)」だが、これは米国で初めて開発されたSLBM(最初の発射実験は1960年)の名称だ。朝鮮は、米国が配備した核戦争装備に対する対抗手段としてSLBMの開発を進めていることを明確にしている。

朝鮮は「火星10」や「北極星」を「高角発射」することで、飛行距離を調整し、他国の領空、領海を侵入することなく、地域の安全を担保しながら、弾道ミサイルの性能をテストしている。これに対して「脅威」「挑発」のレッテルを張るのは、朝鮮への軍事侵攻をねらい、朝鮮の国防力強化にブレーキをかけるようとする米国の論理だ。米国の「核の傘」の下にいる日本もこれに追随している。

朝鮮に対してのみ「弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射も禁ずる」とした国連安保理の「決議」は、核ミサイルに関する米国の不当な二重基準を模倣したものだ。国際法上の根拠はなく、国連憲章の精神にも反している。

国連安保理の常任理事国(中・ロ・米・英・仏)はSLBM保有国だ。これまで実験を繰り返し、「核クラブ(nuclear club)」を形成した国々が、同じプロセスを踏む国に身勝手なルールを適用し、一方的に責め立てるのは「大国の傲慢」以外のなにものでもない。朝鮮は、米国との戦争状態にピリオドを打つ平和協定締結を目標に掲げつつ、核抑止力強化を「国際法で保障された自衛権の行使」として主張し、実行していくだろう。

(金志永)

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