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〈教育研究集会2023〉民族性、少人数授業、学生支援などテーマに

2024年01月27日 06:30 主要ニュース

より良い教育の在り方を模索

20、21日の2日間にかけて行われた「2023年度朝鮮学校教員たちの教育研究集会」。東日本と西日本の地方別に開催された今回の集会には、日本各地から教員や学校関係者ら総勢686人が集まり、論文発表などを通じて貴重な実践や経験が共有された。(韓賢珠、朴忠信)

朝鮮人として育てるには/中高国語

中高国語分科での論文発表のようす(写真は西東京第2初中の白承淑教員)

中高国語分科では、生徒たちに国語(朝鮮語)を「読む力」を育むために行った授業づくりとその方法、初・中・高教育の円滑な接続を考慮した際に必要とされる、校種・学年・教材ごとの到達度に関する研究、国語の素養を高めるための作文指導、学内で行われた「ウリマル運動」の経験などについて、発表論文を切り口に活発な討論が行われた。

今年度の教育研究集会で、論文賞に選出された西東京第2初中の白承淑教員は、昨年、新たに出版されたデジタル版「朝鮮語辞典」(以下、「辞典」)を使った効果的な作文指導法について考察した。18年前から校内作文コンクールを開催するなど、在校生たちの作文力強化のための実践に取り組んできた西東京第2初中。近年では在日朝鮮学生「コッソンイ」作文コンクールで多数の入選作を出すなど、先述の実践が実を結んでいる。

白教員は今回、「辞典」を使用し、作文の要となる「経験(事実)」と書き手の「考え」を表す、適当で効果的な言葉を探し出す方法を習得すれば、作文力がアップするという仮説を立て、約半年間、中1・中3の生徒らを対象に研究を行った。発表を通じて、「辞典」を用いながら、より適当で効果的な表現が何かを生徒たち自らが探す過程は、スキルアップにとどまらない、語彙力や作文そのものの楽しさを習得していく過程であることを確認。白教員は、「作文指導は、生徒たちをチョソンサラムとして育てるうえで重要な役割を果たす」と強調。「生徒たちだけでなく、教員や同胞たちの中でも『辞典』を普及し、ウリマルであふれる同胞コミュニティをつくる」必要性を語った。

少人数学級に適した教育策を/初級部理科

初級部理科分科での論文発表

初級部理科分科には東西合わせて15編の論文が提出され、そのうち11編の論文が発表された。論文発表の場では、理科の授業を通じ予想、仮説を立てるなどの問題解決能力を育むための研究、SDGs(2015年に国連加盟国により採択された持続可能な開発目標のこと)に焦点を当てた論文などが発表された。

同分科内で論文賞を受賞した東京第3初級の趙娜来教員と埼玉初中の李彩華教員は、「初級部3年理科における説明活動を通じ児童の表現力を育むための方法研究」と題し、2校間で遠隔発表の場を設けた経験を発表した。

栃木初中の金希瑛教員は、4年間にわたり一人学級の理科授業を担当した経験を基に、複式授業(異なる学年の学級を1つの学級として再編し行う授業)を実施した経験について、昨年度の教研で論文を提出。今年度は、同研究で複式学級の課題として挙げられた児童の試験成績、理解度の差を減らすことを目的に、タブレット端末での体系的なオンライン学習が可能なツール、ロイロノートを利用し、家庭学習を新たに取り入れた経験について発表した。

金教員は、実験に関する画像や動画をこまめにロイロノートへアップロードし、家庭で小試験が受けられるようにすることで児童らの家庭学習をフォロー。結果として、ロイロノートの導入以降、下級生児童に限らずすべての児童が主体的に自習へ臨むようになるなど、児童の理解度や学習態度で変化が見られたと報告した。金教員は、今後もロイロノートの効果的な活用法を研究し、複式学級における学年、知識の差を補う教授法を模索していくとした。

各人に必要なサポートを/学生支援

東日本集会2日目に行われた討論

近年の教育研究集会の特徴として、各分科会における主要なテーマが共通している点がある。「学生支援」もそのうちの一つだ。幼稚班から高級部まで、成長段階によって具体的な特性や困難が異なる一方、診断の有無や、傾向が認められるが診断には及ばないグレーゾーンなど、対象者をとりまく状況によって多様な支援の形を模索する必要がある。

例えば幼稚班分科では、「集団活動が困難」「考えを言葉にできず衝突する」といった特性を持つ幼児を含め、一人ひとりの特性を把握・理解し、それに配慮するインクルーシブ教育の必要性が提起された。また初級部日本語分科では、「読み書きが苦手」「滑らかに話すことができない」などの特性を持つ児童らに合わせ、スモールステップ(段階的に学習目標を細分化すること)を設定した実践に関する発表も。発表した教員は「教員が考えるスモールステップと本人のそれが異なる可能性がある」として、実践から見えた留意点を共有していた。

東日本集会2日目に行われた討論

教育研究集会2日目、東日本集会では、昨年度から新たに教養分科に加わった学生支援分科の論文発表に続き、全参加者たちが組別に討論を行った。教員たちは「補助要員や適格なサポートが必要だが不足が多い」「家庭内の環境悪化からストレス性の癇癪を起こす子がいる」など、学生支援にまつわる各学校での現状や具体例を挙げながら、保護者へのアプローチ方法、児童・生徒たちへのカミングアウト方法、学校全体としての対策やサポート体制の必要性などについて意見を交わした。分科長の趙嬉淑教員は、「園児・児童・生徒たち一人ひとりに寄り添えば、それぞれに必要なサポートの形が見えてくる。すべての子どもたちに支援が必要という観点に立って取り組んでいこう」と呼びかけた。

学生の祖国観を育む/中高教養

教育研究集会は東西に分けて開催された。(写真は西日本・低学年教養分科。集会事務局より提供)

昨年度に行われた第23回中央教育研究集会で、計12編の論文が提出された中高教養分科。今年度は、東西合わせ24編の論文が提出され、東日本集会では、そのうち4編の論文が発表された。

学校行事を通じた教養に関して生徒の心理的特性や現実的条件に適した指導法の研究、生徒たちを「私たちのもの(우리의 것)」を愛する愛族愛国の人材として育むための教養経験など各校、各教員が得た貴重な成果、経験が共有された。

今年度、中高教養分科で論文賞を受賞した朝青茨城朝高委員会は、コロナ禍において、祖国観を中心に生徒たちの主体性を重視して人生観を育んだ経験について発表。生徒らが「私たち(우리)」と「私(나)」を結び付けられるように展開した同委員会の運動(21~23年を対象)では、祖国往来ができない中、祖国とのつながりを論理的に、そして思想感情的に生徒たちに認識させるために実践してきた試みが報告された。

2日目の表彰式(写真は中高教養分科で論文賞を受賞した朝青茨城朝高委員会)

同委員会は学年別に到達度を設定し、学校での組織生活や行事、課外活動を通じ、「私たち」と「私」について考えを深める学習や討論、その他実体験の場を体系的に設け、生徒たちが祖国と自分のつながりをより身近に感じられるようにした。

それらの実践の結果、生徒たちの言動には、在日朝鮮人としての自己についての認識が深まり、祖国に対する関心が増加するなど肯定的な変化が多数見られた。また、学内試験での成績が平均的に上昇し、高級部3年生らの朝鮮大学校への進学率も大幅に上昇したことなど実践を踏まえた成果が報告された。

朝青茨城朝高委員会は、今後も各生徒に適した細かな指導に取り組むなど、より理想的な運動を模索していく決意を新たにした。

 

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