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【寄稿】決して許してはならない/松永義郎

2023年09月23日 08:30 寄稿

〈関東大震災朝鮮人虐殺100年〉佐賀で講演会

安田浩一さんによる講演「関東大震災 朝鮮人虐殺から100年 日本社会の歴史改ざんを問う」

関東大震災朝鮮人虐殺100年と関連して9日、佐賀市内のメートプラザ佐賀で講演会が行われ、147人が来場した。日本の市民らでつくる「佐賀・福岡 多文化共生社会を創る会」(会長=西南学院大学副学長・北垣徹)が主催した。

この日の行事では、メインイベントとしてノンフィクションライターの安田浩一さんが、「関東大震災 朝鮮人虐殺から100年 日本社会の歴史改ざんを問う」をテーマに講演したほか、福岡と広島の朝鮮歌舞団による公演も披露された。

発起人の一人で、創る会の事務局長を務める松永義郎さんの寄稿を紹介する。

私は高校や予備校でずっと世界史の教員をしてきた。そしてこの間ずっと感じているのが、日本という国は一体いつになったら過去の歴史ときちんと向き合い、反省するのか?という事だ。

1875年の江華島事件から始まる日本の朝鮮半島への侵略。教室でここを生徒たちに語るたびに怒りに震える。というのも日本の側に「正義」がまったく無いからだ。

そして問題なのは、この段になっても日本政府や地方自治体が謝罪も反省もせず、むしろ過去の加害の歴史を隠したり、なかった事にしようとしている事だ。「そんなことはさせない!」という私の怒りが、今回の集会を計画した第一の理由だ。

100年前の関東大震災時に於ける朝鮮人虐殺が起こってから今に至るまで、日本人の精神・意識構造は変わったのか? そこが問われなければいけないのだ。

9日の行事では、第1部として福岡・広島の朝鮮歌舞団による歌と踊りが披露された。

鮮やかな民族衣装とチャンゴ(太鼓)を叩きながらの舞踊は観るものを魅了した。また、「リムジン江」はとても哀愁を帯びていて聞くものを感動させる名曲だ。歌詞にある「とびゆく鳥よ 自由の使者よ 誰が祖国を二つに分けてしまったの?」の部分を聞くたびに、私は心の中で、「日本だよなあ…」と呟いてしまう。

公演の最後は曲調がよく似ている「アリラン」と「赤とんぼ」。交互に歌った後、同時に二つの文化が融合するような演出が加えられた。日本人と在日朝鮮人がこれからも、ともに力を合わせてより良い社会を創っていこう、という思いが込められていたように思う。

つづいて第2部はノンフィクションライター・安田浩一さんの講演だ。

第1部として福岡・広島の朝鮮歌舞団による歌と踊りが披露された。

差別と偏見の「現場」を取材して見えてきたこと。安田さんは多くの事例を話されたが、紙幅の関係上、そのいくつかのみを紹介したい。

関東大震災直後、陸軍省習志野騎兵連隊は「保護」を理由に多数の朝鮮人を収容したが、その一部を殺害し、他は周囲の村人たちに引き渡し「なぎの原」で虐殺させた。かれらは貧困から脱し家族を養うため来日していたが、震災直後、自警団に捕えられて殺され遺骨すら残されていない。

荒川に架かる四ツ木橋では、軍隊が朝鮮人を機関銃で撃ち殺し、自警団が竹ヤリや鉄棒で女性や妊婦をも突き刺した。そして死体に石を投げ「バンザイ」と叫んだ。震災で社屋を消失した新聞社も「朝鮮人が井戸に毒を入れた」と誤報を発信した。しかし、これは100年前だけの話ではない。

近年、自然災害が起こるたびに同様のデマがSNSに投稿されているし、全国でレイシストたちによる朝鮮人追悼碑などへの撤去要求が続いている。例えば、朝鮮人労働者が働いていた奈良・天理市の柳本飛行場の説明文、長野・松代大本営地下壕入口の説明文、宮城・栗原市の安重根記念碑の案内板、群馬・高崎市の「群馬の森」県立公園朝鮮人追悼碑などである。

そうしたレイシスト・歴史改ざん者たちの醜悪な策動と、これを安易に受け入れる地方自治体とのいわば「官民一体」の動きを決して許してはならない。

100年前について言えば、朝鮮人に対する憎悪というものを勝手に民衆の側が燃え上がらせたのではなく、国家による仕掛けがあったんだということ。日本の国策として憎悪を植え付け、民衆を煽ったことを決して忘れてはならない。そして今なお近隣諸国への憎悪を煽るようなメディアもあるし、政府の発言もあるし、そこに乗っかる人々もいる。

虐殺は遠い100年前の出来事ではなくて、今後いつ起こるかもわからない。そうしないために私たちは、今何をすべきなのかを考える100年目にしたいと思う。

安田さんの講演はとても力強くて、聴衆に圧倒的な感銘を与えた。主催者として、大成功だと確信している。これからも在日朝鮮人の人々との熱い友情と連帯を築き上げていきたい。

(私立高校教員)

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