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〈金剛山歌劇団2023〉待望の本公演―見どころに迫る(下)

2023年06月25日 09:00 文化・歴史 暮らし・活動

今年5月、新型コロナの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同様の5類に見直され、行動制限が大幅に緩和されるなど3年余りにおよぶコロナ禍に変化が訪れた。金剛山歌劇団も6月スタートの本公演は4年ぶり。2023年公演の幕開けとなった東京公演(9日)の会場には約1千人の観客が駆けつけ、日常が戻りつつある中での公演開催を歓迎した。朝鮮の文化芸術の魅力を存分に堪能できる伝統作を中心に構成された今年度の公演。団員たちに公演にかける思いや見どころを聞いた。

広く愛される曲で祖国を奏でる

チャンセナプ奏者・崔栄徳さん(48、功勲俳優)

チャンセナプ独奏で観客たちを魅了した崔栄徳さん

チャンセナプ独奏「ブランコに乗る乙女」で観客たちを魅了した崔栄徳さん(48)は「この曲は同胞たちや朝鮮の人民たちに広く愛されてきた代表的な曲だ」と語る。

朝鮮の新民謡「ブランコに乗る乙女」は祖国解放後、人生を謳歌する青年たちの陽気な感性と明朗な気分を表現した大衆的な歌として1956年に創作された。従来、独奏の場合は主旋律となるチャンセナプとその他の民族楽器だけで演奏され、協奏の場合は洋楽器による伴奏も加わる60人規模のスケールの大きさが聴きどころの作品だ。

今回の演目では金剛山歌劇団の高明秀作曲家(功勲芸術家)が歌劇団用に編曲し、曲の随所にアレンジが施された。

2023年度の公演テーマ「風になって」と関連し、初めて聞いた時は「『熱風』という自作の新曲を披露しようと思っていた」とビハインドストーリーを明かす崔さん。最終的に今作に決めたのは「コロナ禍の中で祖国に訪問できない同胞たちに、曲調が少し暗い『熱風』よりも、明るく軽快で馴染みのある『ブランコに乗る乙女』で祖国を感じてもらいたかった」と話した。また崔さんは「女性たちが風になったように遊び楽しんだブランコ」をテーマにした作品の歌詞が、公演テーマともマッチすると強調した。

来年の金剛山歌劇団創団50周年に向けて「同胞たちに愛される新しい曲を創作して、より多くの同胞たちと日本市民に夢と希望を届けたい。そして朝鮮のすばらしい音楽を広めていきたい」と、力を込める崔さん。今後取り組む新作については、「(日本社会に)いろんなジャンルの音楽が溢れている中で単純な表現だと通じない」としながら、「まだ構想の段階だが、趣向を凝らして新しいエッセンス、私たちのオリジナリティを出せたら」と展望を語った。崔さんは来年を見据えながら、今回の巡回公演に全力を尽くすことを誓った。

今年の新人団員たち

新人団員らが出演した作品たち(群舞「モランボンの春」)

今年3月に大阪中高高級部を卒業し、歌劇団の舞踊手としての活動をスタートした曺輝奈さん(18)。憧れの先輩たちと共にした初公演について「とても緊張したが、ステージに立つと自分が金剛山歌劇団の一員なんだと自覚させられる場面が度々あった」と振り返りながら「公演が幕開けするまでに多くの人々の応援や協力があること、それらによって自分が立つステージが成り立っていることも痛感させられた」と感慨深げに語った。

2023年度の巡回公演「風になって」では14演目中、舞踊作品のトップバッターとして群舞「モランボンの春」に出演。朝鮮の著名な按舞家、ペク・ファニョン氏が手掛けた同作は、色鮮やかな扇を手に舞踊手らが、優雅で美しい朝鮮の春を表現した作品。10人の舞姫たちが一体となって繰り出す繊細な動作やアンサンブルは見ものだ。

大阪第4初級(当時)付属幼稚班に通う頃から地域の舞踊研究所で舞踊を習うなど朝鮮舞踊が身近にあった曺さん。朝鮮舞踊で彩られた生活は、初中高級部の時代にも変わることなく、いつしかかのじょに「プロの舞踊手となり、芸術を追求する道で同胞社会に貢献したい」との夢を抱かせた。「当時、『後悔のない選択をしなさい』と背中を押してくれた研究所や、部活の指導担当だった恩師たちには感謝してもし切れない」。

その一方で、大阪中高が創立70周年を迎えた当時、高3だった曺さんは、同級生たちとともに「学校創立100年の未来を迎えることができるかは、自分たちの世代にかかっている」と、母校や地域同胞社会への思いも強くしたと語りながら、「一人ひとりの心に残る舞踊手になりたい」と揺るぎない目標を口にした。

新人団員らが出演した作品たち(ヘグム5重奏「駿馬の乙女」)

チュンヘグム奏者の安美純さん(21)は東京中高出身。東京第1初中・中級部の頃、民族楽器の音色に惹かれて民族管弦楽部に入部、高級部に進学してからは家族や、恩師の後押しもありチュンヘグムを続けた。そうした過程で、在日同胞社会にチュンヘグム奏者が少ない現状を知り、その必要性を感じて朝鮮大学校音楽科に進学したという安さん。

22年の大学卒業後は、母校で児童・生徒の演奏指導をするなど、一時指導者としての生活を送るも、本格的な演奏の機会が激減した。演奏への思いが募っていた矢先、演奏会の誘いを受けたのがきっかけとなり、奏者としての活動を再開。「やりがいや楽しさを思い起こした」。そうして今年4月、歌劇団への入団が決まった。

安さんは「歌劇団といえば華やかなイメージがあったが、入団してみて一生懸命に努力する先輩たちの姿を目の当たりにし、刺激をうけた」と話し、自身も「1年間のブランクを埋めるために必死になって個人練習を続けてきた」と吐露した。ヘグム5重奏「駿馬の乙女」に出演した初公演を終えて、「緊張よりも先輩たちについていくのに必死だった」と胸の内を明かしながら、「技術的な課題を克服し、同胞たちに元気を届けるという初心を忘れずに全公演に同じ気持ちで臨みたい」と決意を述べた。

(文・韓賢珠、高晟州、写真・盧琴順)

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