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短編小説「魚のために道をひらこう」18/陳載煥

その後やっと生きていた12尾のニジマスと背負って養魚場にたどり着いた彼を見て、みなは驚きの目をみはった。すでにテソンは死んでしまって、ニジマスもわが国にはいなくなった、ということになっていたのである。…

短編小説「魚のために道をひらこう」16/陳載煥

彼は、水に沿って北へ行くつもりであった。流れは、東に行ったり西に曲がったり、曲がりくねっているので歩みはどうしても遅くなり、いつしか敵のいる地域に一人とり残されてしまった。ひと足ごとに危険と不安がつき…

短編小説「魚のために道をひらこう」15/陳載煥

事実、ニジマスはひと缶のビスケットがあれば全部捕らえることができるのだ。敵に渡すくらいならむしろわれわれが食ってしまおうというのである。人々は生まれて初めてニジマスを、煮たり焼いたり、刺身にして嫌にな…

短編小説「魚のために道をひらこう」14/陳載煥

彼が結婚して3年目の秋に男の子が生まれたが、やがてその時の喜びにも勝る喜びが彼を跳びあがらんばかりにした。7尾のうちの3尾のメスが、6千あまりの大粒の卵を水中の木の枝に産み付けていたのである。 池のふ…

短編小説「魚のために道をひらこう」13/陳載煥

3章 テソンがジュンハと初めて会ったのは、解放のあくる年であった。 1944年の秋、22歳になったテソンは日本人経営のある養魚場の建設場に働きに行ったが、次の年の正月からその養魚場の養魚工として雇われ…

短編小説「魚のために道をひらこう」12/陳載煥

「さあ、早く行こう! どこまでも行ってけりをつけよう。きみがその主張を引っ込めるまでは、たとえ、障害をおってもくっついていくよ。夕立まで降ってくれて、ちょうどいいや。ぐずぐずせずにさっさと出発しよう!…

短編小説「魚のために道をひらこう」11/陳載煥

水面には水しぶきがあがり、砂地はほこりを舞い上がらせはじめた。静かであった大同江はたちまち波立ち、絶壁にぶつかっては怒号した。河の水はうねり、逆巻いた。夜が明けた。 このさまをじっと見ていたジュンハは…

短編小説「魚のために道をひらこう」10/陳載煥

あわてたテソンは、ジュンハの枕元にひざをつき、自分の冷たい手をジュンハのひたいにそっと当ててみた。ひたいは焼けるように熱かった。 「だいぶ熱があるんですね……」