【連載】「育つ力~いまを支える人々が語る民族教育~」/Episode3・東京第4初中 児童募集事業
2024年02月08日 09:00 民族教育”一つの支部に一つの学校”
総聯足立支部管下に位置し、「一つの支部に一つの学校」の思いを地域同胞社会が共有する東京第4初中。45年に創立し、来年創立80周年を迎える同校には、学生数の減少を始めとする困難を乗り越えるために団結する地域同胞たちの姿があった。
元気いっぱいに学んでいた子どもたちが帰宅し、すっかり暗くなった東京第4初中校舎の一室に、集まる人々がいる。児童・生徒数の減少に歯止めをかけようと協議を重ねる、保護者や教員、青商会、商工会、そして総聯と女性同盟支部の活動家らだ。児童募集事業協議会では、東京第4初中と付属幼稚班への入学対象者の情報を共有し、入学願書の受け取り状況や、学齢前児童らを対象とした各種行事の計画と報告などが行なわれる。
1月末に行なわれた取材当日の協議でも、「1年先だけでなく、2年先の対象への働きかけも並行して行なうべきだ」といった、学校を守ろうとする熱を帯びた意見が交わされていた。
協議会が発足したのは2017年。きっかけは現在中級部1年生として学ぶ生徒らの学年への入学希望者が少なかったことへの危機感だという。発足後、入学対象者の情報を共有し、効果的に働きかけるために月に1度のペースで続けられてきた。
情報の共有、問題の解決
協議会のメンバー一人ひとりの言葉に、子どもたちの笑顔が溢れる学校を守るための決意、覚悟がみなぎっている。
足立地域の子育てサークル・足立あじゃんあじゃんクラブの会長を務める康明愛さんも、協議会に参加する一員だ。
足立あじゃんあじゃんクラブは2000年に発足して以降、学齢前の児童たちとその保護者を対象に、毎年プールやクリスマス会をはじめとするイベントを行ってきた。入学対象者となる児童の保護者らが参加することから、子育て世代の情報が集まるサークルでもある。昨年から同クラブの会長を務める康明愛さんは、「学校が子どもの入学に関して効果的に保護者とやり取りするために、あじゃんあじゃんクラブに集まった情報も含め、各層の同胞たちが事前に情報を共有できる協議会が重要な役割を担っていると思う」と話す。
東京第8初級(当時)を卒業し、結婚を機に足立に移り住みクラブの活動を通して足立同胞社会とのつながりが強まったという康明愛さん。「同胞たちは皆、学校のために尽力している。同胞社会の温かさ、魅力に包まれながら、お互いに協力して学校を守っていけたらと思う」。
朝鮮大学校を卒業し、東京第4初中に赴任してから9年目を迎える教員の郭禎娥さんも、協議会の一員として昨年春から会議に参加している。担当は入学対象者との事業だ。
「子どもを朝鮮学校に送りたい気持ちがあるのに、事情があって送れない同胞がいるのなら、総聯支部が中心となってその同胞のために力を合わせて問題を解決する。そのために同胞たちの悩みや要求、課題がなんなのかを把握し共有する場として、協議会は大きな役割を担っている」(郭さん)
協議会で入学対象者の保護者が持つ悩みが共有されれば、似たような悩みを持っていた在学生の保護者が相談に乗る。家庭の事情や保護者の就労条件が入学へのネックになっていることがわかれば、総聯支部が中心となり同胞たちが協力して課題解決に動いた。学校でも、家庭の事情に合わせ下校時間以降にも児童の面倒を見るなどの対策を講じている。このような取り組みを通して入学が叶った同胞の児童も多い。学校を守り同胞社会を守るために団結する足立同胞たちの姿が、協議会の活動から見て取れる。
協議会で郭さんが担うのは、学校が入学対象者らを念頭に行うイベントの計画、報告や、入学対象者らの情報を名簿としてまとめる工程だ。同胞の出産報告があったり、入学対象者が新たに見つかると、名前や誕生日、兄弟姉妹の構成などを確認し、その都度名簿に加えていく。協議会の活動を通し、今年度の始めには70人程度だった名簿の数は、1月現在約110人にまで増えた。会議では「(人数が増えたので)名簿の字が小さくなって、目を凝らさないとよく見えないよ」と笑い声が上がる。
郭さん自身は東京第一初中を卒業した。昨年春に初めて協議会に参加したときを振り返り、「『一つの支部に一つの学校』という認識を共有し、各層、各団体が力を合わせて学校のために尽力する『All足立』の力を実感した。学校のため、子どもたちのために真剣に意見を交わす同胞たちの熱意に驚かされた」と話す。
『一つの支部に一つの学校』。その思いを共有し、足立同胞の心のよりどころである東京第4初中を支える同胞たちの姿を追った。
足立に生まれ、足立に育ち
学校に子どもを通わせる当事者である保護者たちも、協議会に参加し重要な役割を果たしている。
アボジ会代表の崔鐘徳さん(43)、オモニ会代表の許沼蓮さん(50)らは、各会の代表に選ばれた今年度から、協議会の一員として毎月会議に参加している。
日中は子どもたちを学校に送るかたわら生計を立てるために働く保護者らが、夜間に行われる協議会に参加し、学校のために活動するのは決して簡単なことではない。
崔鐘徳さんはアボジ会代表として奔走した1年を、「コロナ禍が明けてひさしぶりに行事が行われた年だった。3年の空白期間を経て、保護者たちも勝手がわからない状態で難しさもあった」と振り返る。
許沼蓮さんも「1日給食やバザーでの売店など、何か活動する度に事前準備は必要不可欠。家庭もある中でオモニたちが夜間に集まることだって本当は難しいことだと思う。家族の理解も必要だし、『学校と子どもたちのためならなんでもやってやる』という覚悟がないと出来ない活動だ」と話す。
どのような思いを原動力に活動に臨んでいるのかたずねると、2人は「足立のコミュニティを守るのは、足立で生まれ、足立で育ってきた自分たちだから」と口を揃えた。児童・生徒数の減少に歯止めをかけることが同胞社会を守ることにつながるという認識は共通のものだ。
東京第4初中、東京朝高で学んだ許さんは、卒業後、中央教育会で働くかたわら、朝青員として精力的に活動した。「私の親も分会長を長くつとめ、子どもの頃には分会の会議についていって同胞たちにかわいがられた思い出もある。同胞の温かさの中で育ったから、自然に自分も同胞社会を守るために活動するようになった」という。
「青商会や朝青世代の若い後輩たちや、今学校に通っている子どもたちも、そんな姿を見て育っていると思う」(許さん)
崔さんは朝鮮大学校卒業後、教員として教育事業に従事した。教員生活を通して「同胞の姿や子どもたちの姿、ともに働く教員らの姿を見ながら、学校を守ることの大事さを実感した」という。教員を辞めた今も、総聯足立支部の分会長を担いながら、アボジ会会長として学校のために汗を流す。
世代を超えて受け継ぐ
この日、話を聞いた協議会のメンバーらは一様に、現役、そして未来の保護者世代である青商会の活躍について指摘した。
青商会から協議会の一員として毎月の会議に参加するのは、足立地域青商会の呉賢虎幹事長(37)と李英修副幹事長(33)の2人だ。
李副幹事長は「入学対象者の情報については、子育て世代の青商会が一番情報を持っている。一つでも多く情報を拾って、協議会を通して学校や支部と共有しようと努めている」と話す。
実際に、通学方法がネックとなり東京第4初中への入学を迷っていた同世代同胞の情報を共有し問題解決へつなげたり、学校側が把握できていなかった入学希望者の情報をキャッチするなど、協議会で青商会が担う役割は非常に大きい。
昨年度から協議会に参加する呉幹事長は、「学生数は、学校と同胞社会存続の根本に関わる問題。ほかのメンバーのほとんどは同胞社会の先輩たちや年上の先生たちだけど、『遠慮なく意見する』という気持ちで毎回会議に参加している」と話す。
足立地域青商会が行ってきた学校支援事業についてたずねると2人は「あげればキリがない。足立同胞社会のために行う活動のほとんどが直接的にも間接的にも学校のための事業だと言えるかもしれない」と話す。
学校のため、同胞社会のために尽力する青商会。その活動の原動力はどこにあるのか。
呉幹事長は「何もしなかったら学校がなくなってしまうかもしれない。そんな危機感を感じる中で、自分自身が何も行動せずに、外部から不平不満を言うのは違う。だから自分ができることを一生懸命やっている」と話す。
同胞社会のために行動する熱意は、さらに若い世代にも受け継がれている。
朝青でも精力的に活動してきた李副幹事長は、「学校が好きだし、自分を育ててくれた学校への感謝の気持ちも大きい」と話す。
呉幹事長は「『一つの支部に一つの学校』という特性が、足立同胞同士の近さや関わりの強さを生んでいる。自分が生まれ育った温かい足立トンネ、学校を守りたいと思う同胞たちの行動が互いに触発されて、また次の行動につながっている」と頷いた。
東京第4初中は今日も、地域一丸となって難局に立ち向かう同胞たちの温かさに包まれている。
(呉海晶)