場所に刻まれる記憶/金潤実
2024年01月22日 09:00 それぞれの四季現大阪朝鮮中高級学校、5階西側の一番はしっこに美術部室がある。私が高校生の頃、部員として過ごした場所でもあり、今現在、講師として教える場所でもある。
この広い校舎の中で一番空がきれいに見えるのは美術部室のベランダだと、ここを知っている多くの人は共感してくれると思う。でも、知らない人の方がきっと多い。ちょうど部活の時間が日の入りと重なり、5階という空に近づき街を見渡せる場所で1分ごとに美しく変わる空の色、光の色に照らされながら、何十回もの春夏秋冬、ここで数々の作品が生み出されてきた。
この美術部室のように、学校にはあらゆる場所に、ここで過ごしたあらゆる人たちのささいな、とても多くの日常があった。他の誰も知らないような何気ない瞬間瞬間が、記憶であり歴史であることの不思議。当人が忘れているようなことも、学校という場所自体にその記憶の痕跡が刻まれている。
来年、校舎の移転が決定している。ここに刻まれた記憶たちが、なくなってしまうような気がしてしまう。ただ感傷にふけるのではなく、確かにそこにあった小さな歴史を共に噛み締め、心に刻んで、失う痛みもみんなで共有したいと私は思う。
私もかつてそこにいて、誰かもかつてそこにいて、今もまさに学生たちがそこにいて、ひとりひとりの日常がこの場所に重なってきたということを。
(大阪市在住、朝鮮学校美術講師)