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〈本の紹介〉なぜあの人と分かり合えないのか―分断を乗り越える公共哲学/ 中村隆文 著

2024年04月22日 10:00 社会

ゼロか100でなくグラデーションの中で

講談社。定価=本体1750円(税別)。03-5395-3512。

なぜあの人と分かり合えないのか―。日常的にそんな場面に出くわすことは少なくないだろう。身近な例でいえば、お金や仕事に対する価値観の差異など、気心の知れた友人相手であっても、ときに口論になり喧嘩別れすることもあれば、そもそも話し合いが成り立たないことだってある。

本書は、そうした「分断」を乗り越える方法として「公共哲学」という処方を提案する。

公共哲学と聞いて、ピンとくる人はどれほどいるだろうか。本書で扱う公共哲学とは、「共同体で生活する以上、何らかの形で他人とかかわらざるをえないような、私的領域の外側の領域である公共圏について、われわれの社会という観点」から考察する学問のこと。

例えば、人気のアトラクション施設にいったとき、長い行列の一番後ろに並ばなければいけないことがある。そんなとき待ち時間を短縮するファストパスシステムを使えば、その時間を短縮できる。その他にも飛行機の優先搭乗券など、お金と時間をトレードする商業主義基盤のシステムは、いまや社会に根づいて久しい。

けれど「お金で解決」はどこまで許されるのか。著者は、その基準を公共哲学の観点で提案しながら、異なる考えを持つ人々が分かり合うには「寛容」が要になると説く。そのうえで「あの人は寛容」「あの人は不寛容」といった個人のパーソナリティとして寛容・不寛容をラベリングする傾向を批判的に捉え、ゼロか100ではなく、グラデーションの中で考えることを提案する。

学歴主義、商業主義、成果主義、ルッキズムといったさまざまな課題が覆う現代社会。世間で「当たり前」「~すべき」とされる意識や観念の背景と、その「当たり前」の裏にある人々の「忌避」や「不安」の感情を指摘し、意識そのものを問い直す試みがなされる本書。他人と一緒にやっていくにはどうすればいいか、多様化する社会で、相互理解を進めるための一助となる一冊だろう。

(韓賢珠)

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