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【連載】「育つ力~いまを支える人々が語る民族教育~」/Episode5・山口初中民族教育対策協議会

2024年02月28日 11:08 主要ニュース

地域の子ども共に育てる

1月13日に行われたトッチギ(餅つき)大会では、オモニ会特製の豚汁が振る舞われた

日本国内有数の在日朝鮮人の集住地区である山口県下関市。県の最西部に位置する下関市は朝鮮半島と距離が近く、かつて両地を結ぶ連絡船が行き来していたため、戦前から戦後にかけて多くの朝鮮人が住んでいた。現在も多くの在日朝鮮人が居住する同県で、とりわけ人口が多いとされる神田町に建つ山口初中は、県内の同胞子女たちが民族教育を享受する場として歴史を刻んできた。

2008年、下関初中と宇部初中(いずれも当時)の統合により山口初中となった同校では、初・中級部と付属幼稚班が運営される。

現在、6人の園児が学びを共にしている同校の幼稚班。保護者のうち共働きの家庭がほとんどである中、ここ数年は長期休暇中の臨時保育や延長保育の実施、教員による園児らの送迎などを通じ、保護者たちのニーズにできる限り歩み寄るよう努めてきた。また、何よりも学校に通う子どもたちが楽しくのびのび成長できるように、教員たちは最善を尽くしている。

一方で近年、転換期にあるのが学校への児童募集事業だ。

3年前、その年の入園生が1人だったことをきっかけに、同校は児童募集事業の対象範囲を本格的に広げ、学齢前の子どもを持つ県内の同胞家庭へアプローチを開始。以降、学校関係者だけでなく保護者や地域の同胞たちも協力して対象家庭を探し、同校への入園と入学、また日本学校へ通う子どもたちに学校への編入を促す活動に力を入れてきた。

各団体代表を中心に

子どもたちはトッチギを思う存分楽しんだ

23年度、児童募集事業の一環として、同校に民族教育対策協議会(以下、協議会)が設立された。教員たちに加え、総聯本部、下関支部(以降も全て下関地域の団体)、女性同盟、青商会、朝青、アボジ・オモニ会、キッズクラブ(学齢前幼児と母親の会)の代表が定期的に一堂に会する協議会は、各団体が事前にリサーチした児童募集事業の対象家庭について情報が共有される。

2~3ヵ月に一度のペースで開かれる協議会は、学校に子どもを通わせていない同胞たちが学校行事に訪れてもらうことを第一の目標としている。入園、入学を検討している保護者たちに、まずは学校の魅力を直接目で見て、肌身で感じてもらうためだ。

その他にも、日本学校に通う子どもたちが週に一度学校を訪れ、朝鮮語や朝鮮の歌を習う土曜児童教室への参加呼びかけにも力を入れており、民族教育の楽しさを伝え、学校への編入を促すための準正規教育の強化を図っている。

学校関係者によると、協議会の設置以降、これまで学校行事への参加に消極的だった家庭や、学校側が把握していなかった新規の対象が学校行事へ新たに参加するなど、対象家庭の行事参加率が上昇していることからも、目に見える成果が表れている。

そんな同校協議会の活動において、大きな役割を担っているのがオモニ会だ。

山口初中オモニ会は、夏のながしそうめんや冬のクリスマス会、体験保育や体験入学など同校で行われる行事を牽引してきた。学校に通っていない子どもたちやその保護者も多く参加するため児童募集事業の入口となる非常に重要な機会ともいえる学校行事。ここでオモニ会メンバーは飲食物の準備を主に担当する。

一方で、オモニ会の中で把握することができた対象の情報については協議会で共有するなど、行事の開催前から当日まで同会の担う役割は少なくない。

山口初中は、学校関係者と保護者、県内同胞たちが一丸となり「地域の子どもを共に育てる」実践の過程にある。

学校行事を支え

1月13日、山口初中でトッチギ大会が行われた

1月13日、山口初中でトッチギ(餅つき)大会が行われた。毎年恒例のトッチギ大会もコロナ禍の影響で開催が滞っていたため、4年ぶりの開催となった。

トッチギ大会には幼稚班、初級部の児童らと教員にくわえ、保護者や卒業生が参加。また、学校への入園、入学を検討している家庭や土曜児童教室に通う子どもたちも参加し、楽しく和気あいあいとした同校の雰囲気を伝える貴重な場になった。

掛け声と共に餅をつき、できあがった餅に餡子やきな粉、醬油を付け笑顔で頬張る子どもたちの姿に参加者たちは目を細め、久しぶりの再会を喜ぶ同胞など、学校に笑顔が溢れかえった。

トッチギ大会の前には体験保育も行われ、子どもたちは幼稚班の教員による紙芝居などを楽しんだ。

この日、オモニ会のメンバーたちは早朝から学校に集まりトッチギの準備を始めていた。大量の米を研ぎ、できあがったお餅を丸める作業や、昼食にふるまう豚汁の調理、会場に設置する机などの運搬、会場の片付けに至るまで、メンバーたちは休むことなく体を動かしていた。また、児童募集事業の対象となる保護者たちに積極的に声をかける姿も見られた。

参加者たちの笑顔の一方で、「学校のために、子どもたちのために」真剣な眼差しで精力的に働く同校オモニ会メンバーの姿は、まさに「縁の下の力持ち」だった。

朝鮮人として堂々と

早朝からトッチギの準備を進めるオモニ会のメンバー

今年度、オモニ会の会長を務める崔泰順さん(46)は、「一つひとつの行事を大切に、下の世代のオモニたちも含め〝All山口″の精神で取り組んでいる」と語る。

13日に行われたトッチギ大会や体験保育は幼稚班への児童募集をメインとしていたが、行事の準備には初級部のオモニ会メンバーたちも共に参加。山口初中オモニ会として、総力を挙げて学校行事を盛り上げていた。

崔さんは、「コロナ禍の4年間はできないことも多く、活動が滞った。その間に、子どもの卒業と共に経験の豊富なオモニたちもいなくなってしまった」と振り返る。

しかし、コロナ禍が明けると、オモニ会の活動は徐々に活気を取り戻した。いまは教員たちと話し合いの場を持つことで、学校と密に連携を取りながら共に歩みを進めている最中だ。

「やっと再開した。今年度を新たなスタートに、来年、再来年へと繋がる活動にしていきたい」(崔さん)

今年度、幼稚班の責任者を務める河秀美さん(36)は、年中班、初級部1、4年に3人の子どもを送る。

下関地域の学齢前児童と母親たちのサークル「イチゴ会(딸기회)」の責任者も務める河さんは、サークルでのランチ会などの交流行事が「幼稚班への入園に結び付く」ように意識的に取り組んでいる。体験保育などのイベントが行われる際には、宇部地域のサークル「さつまいも会(고구마회)」の責任者、幼稚班の教員たちと定期的に連絡を取り合い、県内の学齢前児童を持つ同胞家庭について情報を共有しているという。

引越しや結婚に関する情報などは「保護者のわたしたちだからこそ知ることができる」と語る河さん。児童募集事業の対象探しにおいても、オモニ会の担う役割は大きい。

朝鮮学校で教員を務めた経験を持つ河さんは「何かあったら言ってください。いつでも動きます」と教員たちに声をかけているという。「ソンセンニムと保護者が密に連携を取り、良い関係であることが大事。そうなれば、自ずと子どもたちが笑顔で生活できる」と話した。

協議会をはじめ、学校のために一丸となる同胞たちの心の底には「ウリハッキョに子どもを送り続けたい」という気持ちがある。

崔さんと河さんに、朝鮮学校に子どもを通わす理由を尋ねると、「日本社会で朝鮮人として堂々と生きて欲しい」「オモニ会がハッキョを明るく照らす太陽のような存在になれたら」と微笑んだ。

民俗遊びを楽しむ子どもたち

そんな保護者世代と足並みを揃え活発に活動するのが朝青だ。朝青は昨年10月にハロウィン行事を主催。行事への参加呼びかけのため県内の19の同胞家庭を伺ったという。

朝青山口県本部の金仟賢副委員長(29)は、同胞との繋がりが枝葉のように広がっていることが朝青の強みであり、行事の宣伝や動員において様々な効果を発揮したのではないかと手応えを話す。

また、「児童募集事業は教員たちだけでなく、組織全体で力を合わせて取り組む活動だと思う。山口初中のように同胞トンネの身近にあるハッキョは同胞社会にとって心の拠り所だ。ウリハッキョのためにできることを常に考え、実践し、民族教育のための活動に情熱を持って取り組んで行く」と力を込めた。

現在、民族教育対策協議会を主管する下関支部は、数年前まで支部委員長を本部委員長 や商工会理事が兼任するなど、支部としての非常事態の最中にあった。

しかし2年前、支部の再建が掲げられ、金東烈委員長が新しく下関支部の委員長に就任して以降、支部の機能は少しずつ回復。協議会の立ち上げからはじまり、土曜児童教室の運営について青商会、朝青と共に協議を重ねるなど、各団体と連携を取りながら児童募集事業に積極的に取り組んでいる。金東烈委員長は「今後も各団体代表と連体し、支部が民族教育の発展に貢献できるよう努めていく」と話した。

県内同胞たちと共に前進する山口初中の活躍に今後も目が離せない。

              (朴忠信)

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