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吸殻の味

2024年01月29日 11:00 コラム 取材ノート

朝鮮に「タバコは吸殻の味が一番だ」という言葉がある。この言葉には、「人は何かを失ってからこそ本来の大切さを知る」という意味がある。

例として、コロナ禍で日常の大切さを再確認したことが挙げられるだろう。その時の非日常が過ぎ去り、日常が帰ってきて久しい。年始に各地で行われた「成人式」もその一つだ。

取材で訪れた「20歳を迎えた西東京同胞青年祝賀会」では、65人の同胞らが青年たちを祝っていた。

小学校から日本の学校に通っていた魯安祐実さん(20)は「小学生の頃、日本人ではないことを理由に嫌なあだ名を付けられた」と打ち明けながら「朝青は国籍を気にしなくていいし、アットホームで居心地がいい」とほほ笑んだ。

青年たちのなかには昨年8月にカザフスタンで行われた第22回世界選手権大会(主催=国際テコンドー連盟)に出場した朴勝俊さん(朝鮮大学校体育学部2年)もいた。朴さんは「こうして同級生たちが集まれたことが何よりも嬉しい」と語気を強めた。

青年たちとその保護者らは再会の喜びを杯に込め、思い出話に花を咲かせていた。

コロナ禍に20歳を迎えた筆者は、その光景に胸が熱くなるほど、羨ましさに似た「吸殻の味」を感じた。

そして、この「味」を知るものとして、再会の場を継続して守り通していこうと思った。自身の出身地である西東京の「成人式」は朝青が主管するからだ。

コロナ禍によって「吸殻の味」を体感したのは筆者だけではないだろう。今を生きる人々には一時的に失った日常の大切さを知る者として、どう行動するのかが問われているようだ。

(晟)

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