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無数の虐げの形

2023年06月14日 09:00 取材ノート

どんな報道記事も、正確な事実関係に言及することは大前提だが、それと同様に、当事者の声を極力反映したいと考えてきた。最近、その思いをさらに強くする機会に出くわした。5月27日、都内で開催された討論集会「日韓『政治決着』のその先へ―強制動員問題の解決を求めて」には、強制徴用賠償裁判を支援する南朝鮮の市民や、靖国合祀取消訴訟の原告が参加していた。南・日関係が、日本による植民地支配の被害者やその遺族たちの尊厳を踏みにじる形で急速に進むなか、かれらが発する一言一句が、憤りにあふれ、切実だった。

訴訟の原告・朴南順さんは、集会前日、結論ありきの「不当判決」を受けすでに疲弊した身体で参加し、たった一言こう話した。「神社、政府、裁判所もそう。責任がないと主張するが、何よりも謝罪すべきではないか」。また原告で強制徴用裁判を支援する李熙子さんも「犠牲者らは、政府と企業は自分たちが死ぬことを待っていると異口同音に話していた。実際かれらが亡くなったいま、どのようなことが起きているか」と、「恨」の歴史を政治利用する両政府を、鋭く追及した。

植民地支配の下で、重層的抑圧と差別の当事者であった朝鮮人は、さまざまな場所で、形で、虐げられている。恥ずかしながら、この日取材するまで靖国合祀取消訴訟の存在を知らなかった筆者は、その事実を痛感させられた。当事者の声ほどリアリティーをもって問題の核心を突くものはない。

(賢)

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