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性的マイノリティーと性差別撤廃部会の活動(上)

2023年04月28日 09:00 社会

自分らしく、より豊かに生きるために

在日本朝鮮人人権協会では、すべての同胞たちが豊かに暮らせるための活動に熱を注いでいる。昨年7月に行われた総会を機に協会では、障害者や性的マイノリティーなど、同胞社会の中でも弱い立場に置かれやすい同胞の人権問題に取り組み、だれもが生きやすい同胞社会づくりにさらなる力を入れていくとしている。多様な性を持った同胞の居場所を提供するため日々奮闘する人権協会と、当事者の声を2回に分けて紹介する。

権利擁護、生活向上のため

在日同胞の権利擁護と生活向上への貢献をうたい1994年に結成された在日本朝鮮人人権協会。2002年には下部組織として「同胞女性学習会」が誕生した。現在の性差別撤廃部会の前身となる。

同胞社会におけるジェンダー平等と性差別の撤廃、そして多様な性を持つ同胞たちの居場所づくりに重きを置いて活動する同会。日本軍性奴隷制問題の克服や現代社会におけるジェンダー平等など、活発な取り組みを行っている。なかでも、2つの性、異性愛を当たり前とする価値観にとらわれず、誰もが自分らしく生きられる社会を目指した活動は、幅広い年代の同胞らにとって拠り所となっている。

事務局の朴金優綺さんは「長らく見過ごされてきた性差別問題と向き合い、同胞社会でさらに弱い立場に置かれている同胞に寄り添うことは、同胞第一主義の理念の実現にも繋がる」と話す。

「オープン」な幼少期

「同胞のセクシュアルマイノリティー当事者が、偏見や差別にさらされるのを防ぎたい」。こう話すのは朴さん(27、仮名)。現在、専従活動家として働いている。

比較的「オープン」な家庭で育ったという。戸籍上の性別は女で、現在の性自認は時により流動的に変わる。中性(※1)、Xジェンダー(※2)などと表現できるがしっくり当てはまる定義はない。

イラスト=柳仙珠

初級部から大学まで日本の学校に通った朴さん。女子高に通っていた中学時代、同級生に惹かれたのをきっかけに性自認、性的指向について自問するようになった。「親は多様な性について理解のある人だったし、友だちに話した時も『いいんじゃない?』というような軽い反応だった。だからか、幼少期は自身がセクシュアルマイノリティであることを理由に悩んだ記憶があまりない」と振り返る。

さまざまな抑圧に気づく

一方、朴さんには物心がついたころから「日本人として生きることを強制」されてきた経験がある。大学における留学同との出会いは、そんな朴さんにさまざまな気づきを与えてくれた。

日本人の母と在日朝鮮人の父との間に生まれた朴さんは、中3になるまで自分の出自について知らなかったという。朝鮮と日本の歴史問題に関しては「関心も知識もなかった」。ゆえに、自身が朝鮮人だと伝えられた時には「私は日本と朝鮮の『ハーフ』(ママ)なんだ」と感じる程度だった。

しかし、大学時代に留学同と出会い、自身の無知が「在日朝鮮人や朝鮮に対する偏見につながっている」という認識を持つようになった。

「それまで日本人として生きてきた自分にとって、民族のルーツを追求し、朝鮮人としてのアイデンティティーを確立できた当時の体験は、人生において大切な分岐点になったといえる」。

抑圧の構造を変え、誰もが自分らしく生きやすい社会を作りたい―。自身の体験からくるこうした気づきは、いつしか朴さんに「専従活動家の道に進みたい」という志を抱かせるようになる。

どんな社会をつくるのか

朴さんはこれまで、SNSなどを通じてセクシュアルマイノリティー当事者との繋がりを得てきた。そんななか、大学3年生の頃に進路相談をしていた先輩の誘いを受け、交流会「ポグムチャリver.2」に顔を出すことに。同じルーツを持つ当事者に新たに巡り合えた瞬間だった。

人権協会性差別撤廃部会が主催する同交流会には、自分がセクシャルマイノリティーであると認識する在日同胞同士が集う。参加者たちが互いの悩みや思いを共有する居場所として機能している。

当時を振り返り、「(同胞のなかにもセクシュアルマイノリティーは)やっぱりいたんだと知れて本当にうれしかった」と話す朴さん。「同じルーツを持つセクシュアルマイノリティー同士が出会える場はここしかない。ここでの出会いは自分にとって、すごく貴重なものとなった」。それからは部会の場でさまざまな経験と交流を深めていった。

部会の活動に積極的に顔を出すうちに、朴さんの関心は同胞社会のなかの性差別問題についても深まっていった。いま思うのは「同胞社会における性差別は封建的な風潮の残滓だけでなく、日本社会からの政治・社会・経済的抑圧と制裁によって強化されている」ということだ。だからこそ民族差別に異を唱えながら人々の認識を改革していくことが、コミュニティー内の性差別問題解消へと繋がるのではないかと提案する。

そんな朴さんが専従活動を通じて痛感することは「誰も傷つかず、誰もが『居場所がある』と感じられる運動体を作り上げる」ことの必要性。そのためには、現在、性差別撤廃部会が力を入れている朝鮮学校での性教育や、さまざまなマイノリティー性をもった同胞の空間づくりが求められていると唱える。

「自身をセクシュアルマイノリティーであると認識しながらも、誰にも言えず隠して生きている同胞がどこかに存在する。そんな人に寄り添い、サポートしてあげられるような活動家になりたい。次代の同胞社会をより豊かにするために自分にできることは力を尽くしたいと思っている」。朴さんは語った。

(金紗栄)

※1~男性と女性の中間地点に自身が存在するという考え

※2~身体的性にとらわれず、性自認が男性にも女性にも当てはまらないという考え

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