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〈トンポの暮らしを支える/こちら同胞法律・生活センターです! 28〉コロナ禍で顕在化した家庭内の問題~DVについて

2022年10月12日 12:00 寄稿

新型コロナウィルス感染症が拡大・長期化する中、その影響は私たちの生活の隅々にまで及んでいます。新聞報道では、20204月の緊急事態宣言以降、在宅勤務やオンライン授業など様々な形態で行動制限、外出自粛が求められる中、これまで潜在していた家庭内の問題が顕在化したとも言われています。その中でもDV(ドメスティックバイオレンス、配偶者間暴力)の相談件数が増大しています。センターに寄せられる離婚に関連する相談にも、その背景にDVがあると思われるものがあります。

すでに広く周知され、今さらと思われる方も多いかもしれませんが、今号ではあらためてDVをテーマに解説します。

DV相談の現状

内閣府の発表によると、全国の配偶者暴力相談支援センターと内閣府が主催する電話相談「DV相談+(プラス)」に寄せられた相談件数は、2020年度は1930件で、前年の約1.6倍に増加しています。また、内閣府の調査報告書によると、「これまでの配偶者からの暴力の被害経験」について、22.5%の人が「あった」と答えています。この結果を男女別に見ると、女性の「あった」は25.9%、性の「あった」は18.4%となっており,女性の約4人に1人で被害経験があるなど、女性の方が被害経験者の割合が高くなっています。さらに,女性の約10人に1人は何度も配偶者からの暴力の被害を受けているという結果が報告されています。

警察庁の発表では、2021年度のDV相談件数は83042件で過去最多を記録しています。警察がDVによる刑法犯で検挙したもののうち、ここ数年は暴行罪が約5200件前後、傷害罪が約2600件前後で、他方、殺人罪、既遂・未遂も含めて毎年100件ほどあるそうです。相談者の年代は30代が一番多く、次いで20代、40代となっており、約75%が女性で、男性は25%です。被害者の圧倒的多数は女性で、加害者は配偶者である場合が全体の4分の3(75%)を占めています。

このようなことから、女性にとってDVはなにか特殊な・特別な問題ではなく、誰にでもどの家庭にも起こり得る問題と言えます。

では、具体的にだれからの、どのような行為がDVなのでしょうか?

DVとは?

DV防止法(正式名は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)では、「DVとは、配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から繰り返し行われる暴力」、「身体への暴力と心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義しています。

「親密な関係にある者同士の間の暴力」ということで、①配偶者、②離婚した相手、③事実婚(内縁関係)の者、④そして生活を共にしている相手、たとえば婚約者や恋人として同棲している者など、このような関係の中で生じる暴力です。*ストーカー被害については、DV防止法ではなく、ストーカー規制法の対象になります。

では、何が暴力にあたるのか。DV防止法では「身体への暴力と心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義されています。具体的には、殴る・蹴る・突き飛ばす・刃物を振りかざすなどの身体的暴力、暴言・行動・交友関係の監視(携帯をチェックする・1日に何回も電話やメールをしてくる等)、人格否定、無視などの精神的暴力、性行為を強要したり、避妊に協力しない、性行為を録画するなどの性的暴力、生活費を渡さない、仕事を辞めさせる、給料を取り上げるなどの経済的暴力、そして子への加害をほのめかすなど、子を利用した暴力など、様々な形態があります。また、妻が外国籍の場合、在留資格の更新に協力しない、「入管に通報してやる」「離婚したら強制送還になる」などと脅す、妻の法的地位を利用した暴力もあります。

夫婦喧嘩とは異なる「力と支配」の関係性で生じる暴力

このように暴力の形態は多様なのですが、共通しているのは、暴力をふるう側が圧倒的な力を持って、あるいは強い立場で、もう一方・相手を恐怖に陥れて身動きできないような状態にさせることです。「力」による支配・「パワーとコントロール」などと言われますが、「力」によって相手を自分の思いどおりにしようとする行為のことです。

この意味において、DVとは、具体的な行為・事実はもちろん、当事者の関係性がどうなのかということが重要です。すなわち、「力による支配・被支配の関係性」の中で生じる行為であり、殴る・蹴る等の物理的な暴力が無くとも、言葉や態度で相手を貶め、精神的に痛めつけるなど、安全で安心して生活する権利・個人の尊厳を脅かす重大な人権侵害なのです。

DVは、お互いに感情を爆発させて火花を散らすといった「夫婦喧嘩」とは異なります。「夫婦喧嘩」は「両成敗」ですが、DVには「加害者」と「被害者」がいます。また、子が親のDVを目撃したり、DVのある家庭で育つことは子の心身に深刻な影響を及ぼす児童虐待にあたります。

DVについて相談できる場所には最寄りの市町村役場や配偶者暴力相談支援センター、警察があります。夫婦間あるいはパートナーとの関係について、「おかしいな?」「辛い」と感じたら、一人で抱えず相談してください。センターでも相談機関をはじめ各種の情報提供ができますので、お気軽にご相談ください。

(金静寅、NPO法人同胞法律・生活センター副所長、社会福祉士)

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