公式アカウント

〈歌舞団の舞台裏 1〉京都朝鮮歌舞団(上)

2013年05月20日 15:51 文化・歴史

〝希望の「種」蒔いていきたい〟/一日中でずっぱり 夢に向けひた走る

花見、納涼祭、朝・日の集い、結婚式など同胞行事の舞台に欠かせないのが日本各地7ヵ所にある朝鮮歌舞団。民族文化の粋を守りながら常に同胞たちのそばに寄り添ってきた団員たちの普段見えない姿を追った。一回目は4月19日、大盛況となったチャリティーコンサートを成功させた京都朝鮮歌舞団の日常と舞台裏を密着取材した。

荷物パンパンに積んで

4月14日。日曜日の午前9時、誰もいない総聯京都府本部に着き、鍵がかけられたドアの前でウロウロしていると、「オンニ、アンニョンハシムニカ!遠くからはるばるスゴハシムニダ」と明るい声が聞こえた。その声の主は、京都朝鮮歌舞団団員の朴玉希さん(21)。兵庫県出身で、今年で4年目。団長の姜侑里さん(32)、6年目の呉明姫さん(25)、今年4月1日に入団したばかりの朴志紅さん(20)も集まっていた。全員が集合したところで昨年購入した「歌舞団車」に機材と衣装をパンパンに積んで出発。総聯伏見支部と南支部の合同花見が行われる京都・豊国神社へと向かった。

花見開始の2時間半前。現場に着くや否や、早速仕込みに入る。特設ステージなどはなく、大きなマットにスタンドマイク、音響装置だけで舞台が完成。重たい装置やマイクコードをテキパキ運び、手際よくセッティングしていく。着替える楽屋や空き部屋などはないため「そういう時は、車の内側を全面布で覆って、その中で着替えるんです」と、当たり前のような調子で言い放つ。そしてきれいなチョゴリをまとったら準備万端。

「何度やっても緊張する」と、強張った表情で話す明姫さん。他の団員らの口数も少ないようだった。そうしているうちに徐々に人が集まり、たちまち焼肉の煙があちこちで立ち上がっていく。

いよいよ本番。「ヨロブーン、アンニョンハシムニカー!」。さっきまでの緊張感は消え、音楽と共に明るい笑顔で登場すると、子どもたち、若者からお年寄り、それまで焼肉をつついていた人たちも立ち上がり、オッケチュムを踊り、統一列車で野原を駆け回った。

「いつも私たちのそばにいて、気楽に話せて、孫のような存在やね。彼女たちの笑顔にいつも励まされる」と話すのは、同歌舞団が指導するコーラスサークル「あんずの会」のメンバーである鄭文子さん(72)。同じく京都市南区からきた安秋江さん(70)は、「朝鮮のメロディーを聴くと自然と体が動いちゃう。やっぱり私の中にも朝鮮人の血が流れているのね」。そう話しながら、再び立ち上がり、チュンパンの輪に入り込んでいった。

この前日は総聯西陣支部の花見があった。二日連続の花見の公演が終わり、団員たちはどっと疲れた様子。それでも本部に帰ると、荷物下ろしが待ち構えている。音響用の機材などは想像以上に重い。それを細い体で素早くしまっていくのだ。

19日には同歌舞団によるウリハッキョチャリティコンサート(本紙4月26日付に掲載)が行われる。「これで一応ひと段落。明日から公演モードに切り替えるぞ!」と気合を入れ直した。

休む間もなく

とはいえ、公演の準備、練習だけの時間を割くのはなかなか難しいのが現実。

京都朝鮮第2初級学校の男子児童の第1部活はサッカー、第2はチャンゴとなっている。同歌舞団は数年前からこのチャンゴ部の指導を担っている。

16日の午後3時。この日は同校チャンゴ部と、チャンゴを習いたい児童たちのためのレッスンが続けて入っていた。この日事務所に戻ったのは午後7時頃。そこから休む間もなく、1時間みっちり司会の練習。その後も各自個人練習、事務作業、舞台スタッフへの連絡、パンフレット作成など、夜が更けても仕事は続いていった。

「もうそろそろ帰ろうか」と話していたかと思うと、数分後にはサンモをかぶり、鏡の前でくるくる回しながら練習する団員も。また、別の団員は当日のチョゴリにアイロンをかけなおしたりと、夜10時が過ぎても誰も一向に帰る気配がなかった。

「ミリャンアリランー!」

翌日、明姫さん、玉希さん、志紅さんは、新校舎が建設されたばかりの京都朝鮮初級学校を訪れた。ここでは毎月1~2回、「アリラン教室」が開かれる。

アリラン教室とは、幼稚園児を対象としたコリアンリトミックのようなもので、チャンゴと音楽に合わせてリズムを刻み踊るというもの。

きっかけは08年、京都朝鮮第一初級学校(当時)のある園児が、アリランを間違って歌っていたことに気づいた教員が「本物のウリノレ、民謡の楽しさを教えてあげたい」と、同歌舞団に話を持ちかけたことだった。教室は、3歳~6歳児までの児童らが対象となっている。翌日の18日には、京都朝鮮第二初級学校でもアリラン教室が開かれた(滋賀朝鮮初級学校でも同じように開催されている)。

園児たちはチョゴリをまとった「先生たち」が登場すると「わー!」と駆け寄り、元気な声で「アンニョンハセヨ」とあいさつした。園児たちは音楽やチャンダンに合わせ上手に体を動かしていく。「今日は何を歌いたい?」と先生が問いかけると「ミリャンアリランー!」と園児たち。この曲が一番人気のようで、踊りも歌もしっかりマスターしていた。

京都第二初級幼稚班の梁秀子教員(62)は、「アリラン教室のおかげで子どもたちが民族の歌と踊りをいっそう好きになった。小さいときから自然と民族心を育むいい機会になっている」と目を細めた。

「1世の時代と違って最近はオッケチュムを踊れる人たちがどんどん減っている気がする。だから物心がつく前から民族のリズムを体で感じて覚えてもらいたい」と明姫さん。

アリラン教室の後、3人は翌日に控えた公演の買い出しへと向い、午後には、団長が滋賀で行われているチャンゴサークルメンバーのもとへと向かった。公演前日にもかかわらず一日中出ずっぱり。この日全員が集まったのは午後7時前だった。

「一日が36時間くらいあればいいのに」と冗談交じりで嘆く団員たち。この間、チャリティーコンサートに向けて練習時間を確保するため、朝8時半から30分間朝練の時間を設けていた。

公演のタイトルは「シアッ(種)」。この種には「未来への希望」が込められているという。「一つひとつは小さいけど、少しずつ蒔いていけばゆくゆくはきれいな花が咲くはず」(団長)。あらゆる差別を受ける日常の中で生き苦しさを実感せずにはいられない。はたまた自らのルーツを隠しながら生きている人もいる。在日としての劣等感を抱えざるを得ない同胞たちが民族の自負心を持てるよう、また、自分たち自身が同胞たちの希望になれる存在になりたい。その気持ちを胸に、休み留まることなく走る続ける彼女たちの姿は、きれいなチョゴリで舞台に立っているときよりも美しく見えた。

(尹梨奈、つづく)

関連記事

Facebook にシェア
LINEで送る