〈そこが知りたいQ&A〉米・南の対話提案、朝鮮の対応は
2013年04月24日 14:25 主要ニュース 朝鮮半島核戦争回避のプロセス要求
朝鮮半島の軍事的緊張が高まる中、米国と南朝鮮当局は「非核化」を条件に対話を行う意向を表明した。一方、朝鮮は、交渉の前提として◆挑発行為の中止と謝罪◆軍事演習の永久中断◆核戦争手段の全面撤収を行う決断を下すべきだとした。対話問題に関する朝鮮の立場をQ&Aで整理した。
緊張激化の主犯は米国
Q. 朝鮮は、米国と南朝鮮当局の対話提案に否定的な態度を示している。その理由は?
A. 対話の目的、議題が明確でなく、現実にそぐわない要求が示されているからだ。米国は「非核化」を対話の前提とし、核放棄に関する朝鮮側の意思表明と行動が先行されなければならないという立場だ。南朝鮮当局も民族問題解決の観点からアプローチするのではなく、米国の主張を反復している。
「先核放棄」を条件にした対話提案は、朝鮮半島における緊張激化の原因を曖昧にする。朝鮮に「挑発者」のレッテルをはり、米国が戦争危機を招いた自国の責任を回避するための外交的ジェスチャーだといえる。
今回、形式的に見れば、米国が先に対話を求めた。抜き差しならない朝米の軍事的対立が不測の事態を招きかねないとの判断が働いたのであれば、緊張激化の原因をはっきりさせ、その解消法を示さなければならない。
Q. 米国が対話を提案する前に、朝鮮の弾道ミサイル発射をめぐる情報が錯綜した。日本でも政府とメディアが「ムスダン騒動」を煽った。
A. 現在の危機をもたらした挑発の主犯格は米国だ。現在、朝鮮人民軍の戦略ロケットが射撃待機態勢にあるのは事実だが、そこに至る経緯を日本のメディアは正確に伝えていない。中国の軍事専門家の張召忠氏は国営テレビCCTVに出演した際、日本が「北朝鮮脅威論」を誇張することで最大の利益を得ると指摘している。
米国は、朝鮮の人工衛星打ち上げに対する国連安保理制裁決議の採択を主導した。そして対朝鮮圧力の「国際世論」を背景に南朝鮮軍との合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォールイーグル」を実施し、かつてない大規模な軍事的威嚇を行った。これは、米国がアフガン、イラクを侵攻した時の手法を彷彿させるものだ。
朝鮮は、軍事演習が始まった3月に「停戦協定の完全白紙化」を表明した。これは、不測の事態に備え、自衛的な対応措置を講じる権利、正当防衛の立場を言葉で表明したに過ぎない。ところが、米国は実際に行動を起こした。核搭載可能な原子力潜水艦や戦略爆撃機を軍事演習に投入し、挑発行為を繰り返した。そして米本土から出撃したB2ステルス爆撃機が、朝鮮西海上空で朝鮮侵攻を想定した爆撃訓練を行う事態に至った。
法的に見れば、朝鮮と米国は、いまだ交戦関係にある。朝鮮が米国の核攻撃訓練に対応した訓練を行うことはあり得る。それは「瀬戸際戦術」ではなく、交戦規定に基づく行動だ。実際、朝鮮人民軍最高司令官はB2飛来の翌日、戦略ロケット軍に対して射撃準備を指示した。その後、ミサイルが朝鮮の東海岸に移動したとの情報が伝わった。
「長期戦争の最終局面」
Q. 日本では朝鮮の対応が「挑発」として喧伝されている。
A. 朝鮮が挑発の被害者であることは、対話を提案した米国の行動によって反証することができる。オバマ政権は先ず、4月上旬に予定されていた大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を延期した。自らの挑発行為が相手の対抗措置を引き起こすことを認めたわけだ。
発射延期の発表によって軍事的譲歩のメッセージを出した後に、オバマ大統領が「誰も朝鮮半島の紛争を見たくない」とコメントを出した。ケリー国務長官はソウル、北京、東京を訪れ「対話と交渉」を提唱し、大統領が軍事演習のうち多くの訓練の中止を命じたことも明らかにした。朝鮮との全面衝突を回避するために米国が一歩後退する形になったといえる。
Q. それでも、日本の報道に接していると米国が朝鮮の譲歩を迫っているように見える。「非核化」の要求はどうなるのか。
A. 「非核化」要求は、焦点ぼかしのレトリックとして使われている。フィデル・カストロ前議長が国営メディアを通じて発表したコラムで指摘したように、現在の状況は「キューバ危機以降、最も深刻な事態」であり、「朝鮮と米国は核戦争の危機を回避せよ」というのが焦眉の課題だ。
1962年、カリブ海で起きた危機は新生社会主義キューバへの核ミサイル配備をめぐり、ソ連と米国が対峙する構図であったが、現在の危機は核保有国である朝鮮と米国が太平洋を挟んで正面対決する構図だ。米国はすでに「定例の軍事演習」を口実に核攻撃のデモンストレーションを行った。一方、朝鮮側はB2ステルスの飛来を「朝鮮半島で核戦争を起こすという最後通牒」と見なした。
交戦状態にある朝鮮と米国が、今そこにある危機を解消するために交渉するのであれば、当然ながら「勃発寸前にある朝米核戦争」の処理方式がその議題となる。
一方の交戦国が交渉に先立ち、自ら武装解除することはない。米国のように、核攻撃の威嚇を続けながら「非核化」の意志を先に示せと要求することは、無条件降伏しろというのに等しい。朝鮮が受け入れる可能性はない。米国が真に朝鮮半島の平和と安定を願い、対話を模索するのであれば、朝米が核保有国の対等な立場で臨む終戦交渉の形式をとらざるを得ない。
朝鮮戦争は終わっていない。1953年に締結された停戦協定は、平和会談に向けた戦闘の一時中断に関する取り決めに過ぎず、現時点では、それさえも「白紙化」された。 2013年の朝米核対決は、20世紀半ばに始まり、半世紀以上続いてきた「長期戦争の最終局面」と見ることもできる。
くすぶる紛争の火種
Q. 米国は朝鮮側が示した対話条件を受け入れないとしている。
A. 朝鮮が国防委員会政策局声明(18日)で示した3つの実践措置(挑発行為中止、軍事演習中断、核戦争手段撤収)は、現在の軍事的エスカレーションを収拾し、戦争を終結させていくために、必ず踏まえなければならないプロセスだといえる。
60年前、平和会談開催を念頭に締結された停戦協定も、双方の軍隊を戦線から後退させ非武装地帯を設定した。そして相手国に対する敵対行為と新たな兵器、兵力の搬入を禁じた。交戦関係にある双方が核武力を誇示し、一触即発の危機が生じている現状で、朝鮮が軍事演習中止と核戦争手段撤収を優先的に求めるのは理にかなっている。
米国としても、何らかの対応策を講じるしかない。「非核化」要求一辺倒では対話の機会を逃すことになる。
時間の猶予もない。朝米の核対決は、米国の対話提案で「小康状態」に入ったかのような印象を与えているが、人民軍戦略ロケットの射撃待機態勢は解除されていない。米国が延期したICBM発射実験も5月には実施されるという。
3月に始まった軍事演習は4月末に終了し、5月7日にはワシントンでオバマ-朴槿恵会談が行われる。米国が朝鮮側の要求に対して、どのような「再提案」をするのか注目される。
(金志永)