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短編小説「百日紅」 26/クォン・ジョンウン

列車は疾風のように走り過ぎながら、クムニョとヨンホに強い風を吹きつけた。 汽笛の音はながい余韻を残しながら、禿魯江の水流にそそぎこむ多くの谷川の流れの中に消えて行った。それはまるで、間もなくやってくる…

短編小説「百日紅」 23/クォン・ジョンウン

ヨンホの父が身をもって守った鉄路のためだと思うと力がわいた。そして耳には金明花同志(抗日ハルチザンの不屈の女闘士※訳注)の声が聞こえる。 「クムニョ、負けないで、さいごまでがんばるのよ!」 ―そうだ、…

短編小説「百日紅」 22/クォン・ジョンウン

「留守のことはたのんだよ。そうだ、百日紅を線路わきに植えたらどうだろう」 「心配ありませんわ」 「それから、宿題を出しておこう。できるだけ時間をつくって、くり返し読むんだ、わかったね」

短編小説「百日紅」 21/クォン・ジョンウン

からだが小刻みにふるえる。彼女は魂の脱けた人のようにじっとすわっていた。しばらくしてようやく気をとりなおし、たんすのひきだしを開けた。背広、下着、チマ、チョゴリや、木綿の服、絹の生地などが出てきた。小…

短編小説「百日紅」 20/クォン・ジョンウン

ヒョン・ウヒョクは午前中、トンネルに石灰を塗り、午後は講習会に行く準備でいそがしく働いた。講習会の期間に事故が起きないようにするためには、多くのことをやっておかなければならない。落石の危険のある石は事…

短編小説「百日紅」 19/クォン・ジョンウン

「石灰が目に入ったようだ、涙がでて…」 顔をあげたヨンホは、涙を流しているヒョン・ウヒョクを見て、「お父さん!」と叫んでかれの胸に飛び込んだ。胸に顔を押しつけて両手を首にまわした。細い足が小刻みにふる…

短編小説「百日紅」 18/クォン・ジョンウン

敵機もこの地点をねらっていたにちがいなかった。 ヒョン・ウヒョクは機関士にむかって、10分以内に後退し貨車を二つに分けていんぺいさせろと指示した。 どれくらいたったのだろう。

短編小説「百日紅」 17/クォン・ジョンウン

昼頃までにはセメントを埋め、その上から石灰でうわ塗りをはじめた。 三人とも石灰でまっ白になり、汗を流しながらうわ塗りをしていった。 トンネルはきれいに修理できた。仕事を終えると、三人は線路の土手に腰を…

短編小説「百日紅」 16/クォン・ジョンウン

それでも彼女は今日まで、党員である夫を心から尊敬し、愛してきた。だからこそどんな苦しみにも耐えることができたし、泣き出したくなるようなときでも笑顔を見せてきた。自分としては、傷痍軍人であり、保線要員で…

短編小説「百日紅」 15/クォン・ジョンウン

クムニョは信号灯をかざして立った。 そのとき、ヒョン・ウヒョクが家の戸口を開けて飛び出してきた。 「どうした、事故なのか?どうして応答の汽笛が鳴らないんだ?」 列車は通過信号を受けると応答の汽笛を鳴ら…

短編小説「百日紅」 14/クォン・ジョンウン

クムニョは班長のあとを追って、つもりつもった自分の胸のうちを訴えた。 「数日後に小型トラックをよこしてください。むりにでも私、転任させますわ。ここではもうがまんできませんの。かぜがなおったらすぐ荷造り…

短編小説「百日紅」 13/クォン・ジョンウン

古傷のある足が最近とくに悪くなったので温泉で休養させてくださいと、訴えたかった。 しかし、夫の前ではそれを口に出すことができず、唇を噛んでがまんした。 話がはずむうちに、班長がごそごそと新聞を広げて新…

短編小説「百日紅」 12/クォン・ジョンウン

クムニョは黙って本を受けとり、姿勢を正して読みはじめた。 すでに何回もくり返した『トンファ(敦化)の森林の中で』をもう一度読んだ。ほとんど暗誦している題目だけに朗読はよどみがなかった。読んでいるうちに…

短編小説「百日紅」 11/クォン・ジョンウン

いばらを踏み、枝葉をかきわけながら山をよじ登らなければならない。崖からころげ落ちることもある。負傷した足は刺すように疼く。しかし、歯をくいしばり、ざくっ、ざくっと残雪を踏んで稜線に沿ってすすむ。からだ…

短編小説「百日紅」 10/クォン・ジョンウン

向こうの峰の上を2羽のとびが大きく弧を描いて舞っている。 クムニョは荷物をおろすと、少女のようにうっとりとした目で、るり色に高く澄んだ空を見あげた。 「まあ、なんてきれいなんでしょう!」 クムニョは嘆…

短編小説「百日紅」 9/クォン・ジョンウン

このことがあってからすぐ、クムニョはかいがいしく引越しの準備にとりかかった。そしてあたたかい日を選んで荷物を運ぶことにした。 ヒョン・ウヒョクは岩場に行って家を手入れした。新しくかまどをつくり、オンド…

短編小説「百日紅」 8/クォン・ジョンウン

彼女は思わず目をみはった。鉄路を石でたたいたのは、石をとがらせるためだった。その石で、夜中のうちに鉄路をひたした小川の水が氷になっているのを割っていたのだ。そして水を流すために溝さえ掘ってある。あたり…

短編小説「百日紅」 7/クォン・ジョンウン

クムニョは2、3日の間ヨンホの様子を見てから、遅刻の原因をたずねた。 「朝ごはんが遅いの?」 「…」