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短編小説「道づれ」22/キム・ビョンフン

「おじさあん――」 と呼びながら彼女が駆けてきた。私の前に立つともじもじしながらこう言った。 「おじさん、あのう、郡党委員会に提起するとき、管理委員長さんの話は言わないでくださいね……」 「どうしたん…

短編小説「道づれ」19/キム・ビョンフン

「じゃあ、郡の人間がみな朝夕、魚が食べられて、そのうえ、工場をひとつ建てなければなるまい」 「工場ですって?」 「そう、缶詰工場を建てて、われわれの天の下の最初の村の魚の味を、ひとつ国中の人に味合わせ…

短編小説「道づれ」18/キム・ビョンフン

「そりゃあ、えらい! で、それからどうなったの?」 「だけど、それからまた、私はばかなことをしてしまったの。……問題を組織的に解決しようとせずに、その夜、ひとりでコップと鍬をかついで、チョンゲ川の以前…

短編小説「道づれ」17/キム・ビョンフン

「その集いがあってから、私は、自分の考えを改めて検討してみましたの。すると、私たちがいつもへんぴで、何の希望もないと思っていた故郷の山河にも、実は党のあたたかい日射しのもとに、新しいものが芽ばえ始めて…

短編小説「道づれ」16/キム・ビョンフン

「ふん、そんなばかげたことが!……」 私の頭の中にはがっちりした顔つきのチョンゲ里管理委員長の顔がうかんだ。チョンゲ里協同組合は、郡内でもなかなか有望な組合で、仕事もわりとうまくいっていたし、管理委員…

短編小説「道づれ」15/キム・ビョンフン

「どこの休養所でしたの?」 「どこって……つまり、その……妙香山の休養所だよ」 場所まで考えていなかったので、とっさにでまかせを言った。多分、普段からいっぺん妙香山に行ってみたいと思っていたせいらしい…

短編小説「道づれ」14/キム・ビョンフン

「なあに、別に急用でもないんだよ……」 私はあまりにも彼女が恐縮しているので、安心させるために何か適当なことばをみつけようと努めたが、なかなかもっともらしいことばが浮かんでこなかった。 彼女は包をほど…

短編小説「道づれ」13/キム・ビョンフン

実はこの問題は、党から治山治水事業を大々的におこなうようにとの指示があったときに、それとならんで、建設した貯水池では淡水養魚をやるようにと、同時に指示されたことでもあった。私の郡では去年、大小12の貯…

短編小説「道づれ」12/キム・ビョンフン

汽車はすぐに発車した。例の乗客たちはデッキから身をのりだすようにして何度も頭を下げながら 「お願いしまあす!」 「ご苦労さんです!」 と、しきりに私の労をねぎらってくれた。

短編小説「道づれ」11/キム・ビョンフン

私は彼女がうずくまったまま泣いているような気がして、思わず鼻柱がじーんとしてくるのをおぼえた。 さて、どうしたものだろう?……私はデッキの上を見回した。いつの間にかそこには、先刻、彼女から魚の講義を聴…

短編小説「道づれ」10/キム・ビョンフン

水を4回ばかり替えたことからおして、あれから七つか八つ目の駅をすぎたころのことである。思わぬことが持ち上がった。 水を替えてやるべき次の駅に間もなく着くというのに、彼女は何度も缶から温度計を引っ張りだ…

短編小説「道づれ」9/キム・ビョンフン

「何か、また変わったことでも起きたかね?……またポンプを押そうか?……」 「いいえ、水を替えなければならないんです、おじさん……」 彼女は振り向きもせずそう言うと、胸のポケットから青い表紙の手帳をとり…

短編小説「道づれ」8/キム・ビョンフン

「おじさん、……どうしてソンビは死ななければならないの?……あんなやさしくて美しいソンビが、どうして……なんのために……踏みにじられて、最後には、この世で、幸福のひとかけらも味わえずに、血を吐いて死ん…

短編小説「道づれ」7/キム・ビョンフン

彼女はどうしたわけか、あわてて缶の口を開けると温度計を引き出した。今までの明るい顔がさっとくもった。彼女は急いで缶のそばにおいてあった包みをほどくと、中から自転車の空気入れを取り出した。そうしてホース…

短編小説「道づれ」6/キム・ビョンフン

「へえ、それじゃあ、まったく一石二鳥じゃないか!」 後ろの方に押しやられていたのっぽが、首をつきだして言った。

短編小説「道づれ」5/キム・ビョンフン

彼女は何度も「おじさん、おじさん」と言いながら、後ろから私の肩を動かして角度を調節してくれた。私は「おじさん」よばわりを気にする暇もなく、ただ彼女のするままになっていた。するとほんとうに、まつ毛よりも…

短編小説「道づれ」4/キム・ビョンフン

「娘さん、それはいったい何の卵ですか?」 とうとう私は彼女にきいた。周りのものも好奇心にみちた眼差しで彼女を見つめた。するとどうしたことか彼女の顔がみるみるうちに真赤になった。彼女はあわてて缶の口にガ…

短編小説「道づれ」3/キム・ビョンフン

ちょうどこのとき発車を告げる汽笛が鳴った。びっくりした娘はあわてて缶を持ち上げると一目散に乗車口の方へ駆けてきた。手にした缶をさっと肩の高さに持ち上げると、左手で缶の下を支え、用心深くデッキの踏段に置…