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短編小説「幸福」8/石潤基

「逃げたのは、何ですか?」 僕の靴音に、びっくりして立ち上がった彼女は、顔をこわばらせて僕の方をちらと見た。まだあたりはうす暗かったが、白い顔とはちきれそうに元気な若さが溢れた女性であった。どこかで聞…

短編小説「幸福」5/石潤基

「われわれは往々にして、われわれが勝ち取った幸福に対して、その外面にばかり目を向けるあまり、本質を見落とす場合が多いようだ。いいかね? 好色漢の幸福が女性にあるとすれば、守銭奴の幸福は金銭にある。一方…

短編小説「幸福」4/石潤基

私は唖然とした。突然の質問に、私はすっかりあわててしまった。もちろん彼に、自分の幸福について考える必要があると意見をしたときは、私自身は幸福だということを言外に意識していたに違いなかった。微力ながら私…

短編小説「幸福」3/石潤基

われわれは時々、双方の家族5人で(常時、私に生まれたばかりの息子・潤があり、彼ら夫婦はまだ新婚早々であった)いまは暗闇の中に沈んでいるあの羊角島や、綾羅島へ遊びに出かけたものだった。私の耳に今も残って…

短編小説「幸福」2/石潤基

「あら、どうしましょう? ご飯はすぐ炊けるけどおかずがなんにもないわ……」 「何をつまらん心配をしている。あり合わせのものでいいさ」 「だって、本当に久しぶりにいらしたのに、おもてなしもできなくてはも…

短編小説「幸福」1/石潤基

外科医として広く知られるようになった申亨鎮は、私の中学時代の同級生で、40を過ぎた今日まで、少年時代からの変わらぬ友情を交わしてきた、竹馬の友の一人である。