短編小説「幸福」28/石潤基
2021年10月09日 08:25
彼らは去年の秋、正式に結婚式を挙げた。党大会に参加することになった郡党委員長と僕のために、わざわざ日延べまでして日取りを決めたのだが、折悪しく大会に続いて学会が開かれたために、僕はとうとう参加できなか…
短編小説「幸福」25/石潤基
2021年10月02日 08:11
4年有余にわたる血のにじむ研究過程に対する話は、これで全部だった。それは、たんに亨鎮が自分のテーマを、玉珠さんと勝載くんの幸福だけに置いたからではないと私は思う。私は新聞社の同僚たちから、彼の話を取材…
短編小説「幸福」24/石潤基
2021年09月27日 07:45
われわれは、先輩たちから受け継いだ革命のバトンを、幸福に対する革命的な見解とともに、責任をもって後の世代に伝えるべきだ。ここにわれわれの時代の責任があり、幸福があるのだ。 僕は勝載くんと玉珠さんの幸福…
短編小説「幸福」23/石潤基
2021年09月25日 07:44
きみにもう一度訊くが、はたして幸福って何だろう? 僕はそのとき初めて、幸福というものは、ある凡俗な目先の欲望の充足からくる快感ではないということを理解した。僕は今でも確信しているが、真の幸福というのは…
短編小説「幸福」22/石潤基
2021年09月23日 07:43
風さわやかに 星のきらめく 楽しき今宵 なつかしの わが友よ 集まって歌おう ともに踊ろう その歌が、公園かクラブの窓から聞こえたのなら、別に驚くことはなかったろう。ところが、彼らはクラ…
短編小説「幸福」21/石潤基
2021年09月18日 08:41
私は論告でも聞いている人間のように息を殺して淡々と語る友人の声に耳を傾けていた。そして玉珠という未知の女性をひとりで頭の中に描いてみた。どこか僕が取材中に出会った千里馬騎手たちの、燦然と光を放つ素晴ら…
短編小説「幸福」20/石潤基
2021年09月15日 08:41
「きみは、それだからいけないと言うんだよ。自分の仕事さえうまくいけば、それでおしまいだと思っている。首相同志のおられる平壌の復興ぶりや、国民経済のすべての部門で、3カ年計画がどのように進んでいるのか、…
短編小説「幸福」19/石潤基
2021年09月13日 08:21
包帯をほどいてみて、予想以上に症状が悪いことを確認した僕は、非常に暗い気持ちに襲われた。率直に言って、その時の僕の診断は、治すのは難しいということだった。だが、何気ない顔をしていると当人はかえって平然…
短編小説「幸福」18/石潤基
2021年09月11日 07:43
しばらく息をついた僕は言葉を続けた。 「玉珠さん、いつか機会があったら、僕がなぜ、そのとき変な顔をしたのかお話しましょう。遠からずそんな機会も来るでしょう。きっと来ますとも」 僕の謎のような答えを聞く…
短編小説「幸福」17/石潤基
2021年09月08日 07:43
僕は欣然として血を取ると、さっぱりした気持ちで手術に取り掛かった。実際、切開してみると、いま少し遅かったら危ないところだった。手術は4時間以上かかった。縫合を終えてしまうと、僕の脚もふらふらしてきた。…
短編小説「幸福」16/石潤基
2021年09月06日 07:51
本当に僕は、狭く偏っていた自分を心から恥じたが、それにもまして、僕の周囲にそんな崇高な人間を見つけ出したことが、限りなくうれしかった。 その夜、僕が遅くまで寝つかれずに、転々としているところへ、急患を…
短編小説「幸福」15/石潤基
2021年09月04日 07:50
ところで玉珠さんは戦線で看護婦としての勤務中に、勝載くんを知ったそうです。彼女はその時からすでに、他の同僚とは問題を見る観点が違っていたのです。わが党のこの誇るべき党員である彼女は、自分の革命的な戦友…
短編小説「幸福」14/石潤基
2021年09月01日 09:57
やがて、深くうなだれた僕の耳元に、重々しい声が聞こえてきた。真顔で真剣なやや鎮痛に満ちた、そして盤石のように、おごそかで厳しい声であった。
短編小説「幸福」13/石潤基
2021年08月30日 09:57
「ラジオをこっちに寄越してくれたまえ。あの勝載くんのラジオだ。この科長同士が帰るついでに、持っていってもらおう」 さあ、ことはますます面倒になっていく。ところが指導員が出てしまうと、その話はそれっきり…
短編小説「幸福」12/石潤基
2021年08月28日 09:57
「われわれは、戦後の国民経済復興発展3カ年計画を成功裏に遂行し、祖国の統一独立の確固たる保障である共和国北半部の民主基地を、政治、経済、軍事的にいっそう強化しなければならない。(金日成)」
短編小説「幸福」11/石潤基
2021年08月25日 09:09
それは、真心こもった感謝のしるしでもあった。そして自分たちの「きょうだい」だという誇りと親しさがこもっていたようだ。それに加えて、彼女は歌も上手だった。日ごろ口ずさんでいる時はとりわけうまいとも思って…
短編小説「幸福」10/石潤基
2021年08月23日 09:09
はたして、この初対面の時のおかしなしこりが、二人の間に、仕事の上にまで微妙な双曲線を描くようになってしまったんだ。 僕は外科の責任者だし、彼女は外科の準医だったが、なぜか無意識のうちに彼女を避けるよう…
短編小説「幸福」9/石潤基
2021年08月14日 08:00
その時の僕の気分は、清く澄んだ湖水のように静かなものであった。彼女から受ける溌剌としてすがすがしい若さは、僕の頭の中で何か化学作用でもおこしたように、夜汽車の疲れや、重苦しい気分をすっかり吹き飛ばして…