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ニョメン・オーガナイジング⑤災害と同胞コミュニティー/文・イラスト=張歩里

2024年09月12日 13:05 論説・コラム ニョメン・オーガナイジング

災害と女性

最近、自然災害における死者数は女性のほうが圧倒的に多いことを知った。気候変動によって40年前にくらべて世界はおよそ5倍も危険になっているそうだ(1970年代の自然災害は年間743件だったのに対し、00年〜10年には3496件だという)。

もちろん女性の社会経済的地位が低い国ほど死者数は増えるのだが、たとえば水泳を習う機会が少ない女性は洪水から身を守れなかったとか、公共の場に姿を見せない多くの女性が避難の知らせが届かなかったなど、女性たちの生活が制限を受けていることで生死が分かれるのだそうだ。

それだけではない。多くの避難所も「男性によって、男性のために」建てられたもので、男女混合のオープンスペースでの生活を避け避難所へ行かなかった女性の死亡率は男性よりもはるかに高くなってしまう。日本においても多くの避難所ではプライベートな空間はほぼなく、すべて周りの人に見える環境である。ある避難所では、発災から2カ月経つまで女性用の更衣室がなかったそうで、女性たちは汚れたお手洗で着替えるしかなかったそうだ。あらゆるメディアが災害を「大きな出来事」としてたくさんの報道をしていても、下着を洗濯し干すスペースの問題や、月経や生理用品、授乳など女性特有の悩みは、ほとんど聞こえてこない(日本の内閣府は20年に、女性の視点からの災害対応が行われるようガイドラインを出したが、これに伴った自治体の動きはどうだろうか)。

また東日本大震災での聞き取り調査では「就寝中に体を触られた」「着替えをのぞかれた」「物資を支援する代わりに性行為を求められた」といった証言もあり、能登半島地震では「女性はできるだけ1人で出歩かないで」などの注意喚起がされていた。やはり、女性に「自衛」を求める「社会」なのである。

女性だけではない。声が上げづらい「災害弱者」の困りごとはいつも後回しになりがちだ。前置きが長くなったが、私たち在日朝鮮人女性が居住地域にて、お互いに声をかけ合い相談し合えるような、安全な避難所に出会える可能性はどれほどであろうか?

組織的な「備え」

とあるニョメン分会では「防災を考える社会見学」ツアーを企画。いろいろと考えさせられた。

今や個々が災害に対する心構えや知識、備えをすることはとても重要。日本では地域や学校で幼い頃から防災訓練に参加している。しかしながら、自治体のような地域コミュニティーに密接に繋がっていなかったりする場合、そういうチャンスが少なく、防災の知識がゼロという同胞も多いはずである。だからこそ同胞コミュニティーで「備える」という発想はとても大切かもしれない。それに地震や大雨の時、多くの人は「逃げる」という知識はあっても、実際には「自分は大丈夫」「どうせたいしたことない」という「正常性バイアス」が働いて、逃げ遅れることが多いそうだ。だから近隣での「率先避難者」の存在が重要だという。

このような話を聞いて、晩年一人で暮らしていたアジメのことが思い浮かんだ。

かのじょなら近隣住民たちの声に耳を傾けただろうかーー。長きに渡って繰り返された朝鮮人への差別で日本社会に心底失望し、近隣住民との関わりを避けてきたアジメは、同胞以外を頑なに拒んでいた。

アジメの姿と被る無数の高齢同胞の姿を想像する読者も多いと思う。1、2世たちは社会や行政機関のいう「公助」への不信感が大きい。

「災害は社会的に弱いところを襲う」という言葉もあるが、在日朝鮮人であるがゆえに支部、分会に密接した組織的な「備え」が必要なのかもしれない。

いざという時の「共助」

前回の記事で、同胞地域に根付く伝統的なシステムや活動がときに、プライバシーという観点では矛盾をはらんでしまうと書いた。「知られる」ことへのネガティブな反応、狭すぎるがゆえに「息苦しさ」を感じるという若者の声に耳を傾ける必要も感じる。

しかし同胞コミュニティーの情報交換が、いざという時に「公助」よりも力を発揮し、同胞どうしの「共助」で被害を最小限に抑えることも可能ではないだろうか。同胞高齢者が災害時、スマホやパソコンを駆使して自らリアルタイムの情報を収集して、状況判断するのはとても困難であろうし、そんな時、支部や分会が持つ縦横の情報網が「公助」よりも早く到達するはずだ。また普段からの同胞地域のつながりが孤立を防ぎ、いざというときに顔が浮かぶ関係性が生活実態にダイレクトに役に立つこともある。

同胞の人口が減り社会が変わっていく中で、同胞地域だけではまかないきれない部分も出てきているのは事実だ。だからこそ同胞個々人がまちなかと、日本の住民との連携を作っていくにはどうすればいいか、「公助」に安全に繋がるにはどうしたらいいかといった視点は、やはり草の根のウリ運動で平常時から考える必要があるとも思う。予測できない大きな事件や災害が起きたとき、流言飛語などの影響で不当な民族差別と嫌悪感、排斥的感情を引き起こす可能性があることを私たちはよく知っているのだから。

(関東地方女性同盟員)

※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。

(朝鮮新報)

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