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ニョメン・オーガナイジング④「訪ねること」とは/文・イラスト=張歩里

2024年07月31日 09:54 論説・コラム

分会訪問スケッチ

夏の強い日差しが照り付ける土曜のお昼、分会役員と共に同胞訪問に出かけた。2時間かけてニョメン分会同胞宅の半分ほどを回る予定。数十年の経験値を誇る「訪問の鬼」・ニョメンオルシンの軽自動車に乗って訪問する。まだまだ新米の私は地域の地図も地名もさっぱり分からないので、もちろん後部座席に座った。座席の足元には大きな保冷バックに凍ったペットボトルドリンクが数本準備されていた。真夏の訪問、これに全員救われるのである。

同じ地域に住んでいても入り組んだ住宅街に入ると、自分がどこを走っているのかすらも分からなくなる。一軒目のマンション前に着くと、まだ何の役にも立てていない私は、先陣を切ってインターホンを鳴らした。

「…」

(あら、お出かけかしら? まあ、しょうがない。)

車に戻ろうとすると、なんとニョメンオルシンはマンションの住人と親しげに話しながら、そのままエントランスを「突破」した!? そして部屋の前に慣れた手つきでメッセージを添えた手紙と機関紙、手土産を掛けるのだ。そして、すかさずメールを打ち込み、訪ねたことを報告。無駄のないスムーズな一連の行動に目が奪われるばかりである。

「さ、次の家は道がややこしいから、ナビするわね」と言って住所を打ち込んで運転を再開する。新たな住宅街に差し迫ると、ナビは執拗に「右」に行けという。しかしオルシンは「いや、左よ!」といってナビをまったく無視して突き進む。ナビより経験が勝るのか、迷路のような住宅街を横目に感心していると案の定、訪問前半で車酔いに襲われた。

対面コミュニケーションのハードル

同行したオンニたちも始終ハラハラしている。

分会「宣伝員」であるオンニたちはいつも自転車で行ける距離の同胞宅にポスティングしかしたことがないそうである。実際、プライバシーの観点や、生活様式の変化で対面コミュニケーションはとてもハードルが上がった気がする。

突然のインターホンが迷惑という感覚はとてもよく理解できる。だから「訪ねること」の正解がいまいち解らないという声もよく聞く。だから我々若手は「たぶん迷惑だろうなぁー」、「あ、留守か!(ホッ)」の本音を隠しながら、訪問をしていた。

こんな調子でオルシンの絶対的経験を頼りに誠に「地道」な訪問は終わったのだ。

直接会えた同胞は炎天下の中でも玄関前まで出てきて労いの言葉をかけてくれ、車が去るまで温かく見送ってくれた。留守のお宅では、「訪問の鬼・オルシン」がその方との信頼関係の詰まった短い手紙を残す。(もちろんポストの場所も把握済みである)

ああ、なんて大変な活動なんだろう。これが率直な感想だ。しかし打ちのめされたような気持ちにもなった。交通網や伝達網は発達しているはずなのに、チラシ一枚でも必ず「訪ねる」のだ。

実際、「郵送代よりガソリン代のほうが高いんじゃない?」という人もいる。

地域の個別のディテールを把握するため、同胞の話を聞き、そこに生活する人びとの慣習やリアルな営みに寄り添おうとする営みは、現代社会では「非効率」といわれるかもしれない。しかし長きに渡りウリ運動の中心には「訪ねること」があった。地域社会に根付くウリ運動の伝統的なシステムを効率化の名のもとに、我々世代が容易く変えてしまってはいけないはずだ。

パワーを「貸し借り」する関係

分会訪問といってもその地域の実情や事情、文化によってさまざまな形があるはずだ。長い共同体運営の知恵に溢れていることであろう。

しかし近年人々の絆をよりよい形で保持するには幾重もの困難があるのは確かである。実際、分会活動は同胞個々の人生の機微を見つめ、どのような生活を営み、過去にどのような人生を送ってきたかを「知ること」と直結している。

しかしそれを「知られること」の間には、積み重ねなければならない信頼関係が必須なのだ。「知られる」ということは、無邪気な好奇心によって傷つき、苦しさを覚える可能性もあるし、だからもちろん「知られない」権利もあるのだ。

反面、在日朝鮮人は複雑すぎたり、不都合な制度など問題に直面するたび、それが個人的な困難の場合、特に、自分のせいにしたり仕方ないことだと諦める傾向がある。しかし多くの場合それは、日本社会や制度のひずみから生まれている。だからこそウリ・コミュニティが持っている資源からパワーを「貸し借り」する相互依存する関係があることはとても心強いのではないか。

ときに問題を抱える当事者であり、ときに状況を共有できる同志にもなる、そうやってこれからも分会同胞が繋がりあっていきたい。

(関東地方女性同盟員)

※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。

(朝鮮新報)

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