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短編小説「百日紅」 11/クォン・ジョンウン

2023年10月24日 09:00 短編小説

いばらを踏み、枝葉をかきわけながら山をよじ登らなければならない。崖からころげ落ちることもある。負傷した足は刺すように疼く。しかし、歯をくいしばり、ざくっ、ざくっと残雪を踏んで稜線に沿ってすすむ。からだは綿のように疲れる。そんなとき、日当たりのよい場所に腰をおろしてたばこを吸う。その一服のうまさはなんともいえない。岩によりかかってうとうとするときもある。しばらくうたた寝をむさぼり、かっこうのあわれっぽい鳴き声にふと目をさます。遠くに火が見える。あわてて立ちあがって目をこする。よく見ると、それはつつじの花だ。

山の中腹をいろどるまっ赤なつつじ、その向こう側には残雪が反射し、新緑に萌えたから松の林をきわだたせ、山麓には青いリボンのように禿魯江が流れ、手のとどくような天空を雲が浮かんでいる。目のさめるような絶景だ。

工具をかついで山から山へと渡り歩く。山で寝て山で食べながら旬日を過ごすと、遅咲きのしろふねつつじの季節となり、やがて梅雨に入る。

この時期は崖や岩場の絶壁をよじ登らなければならない。

篠つくような雨や落石とたたかわなければならない。

たたかいに疲れ、負傷した足が痛むと岩にすわってひざをさする。

「おい足よ、おれの気持ちがわからんのか。痛まないでくれ、がまんするんだ。アメリカの奴らが祖国の地にとどまっている限り、おれたちのたたかいは終わっていないのだ。おまえも戦争中に殉職した保線要員のことはおぼえているだろう?爆弾をかかえて歩いたあの勇敢な足のことは知ってるな?おまえもあのようにたたかわねばならんのだ、たのむから痛まないでくれ…」

かれは古傷をじっと見つめながらこうひとりごちる。そして芝生の上に寝ころがって澄んだ大空を眺めながら統一された祖国の姿を心に描く…。

呪わしい軍事境界線の鉄条網をたち切り、生い茂ったよもぎをなぎ倒し、枕木を敷いて鉄路をつなぐ。信号機が設置され青色を点ずる。轟音を響かせて万浦発釜山行きの列車が走る…。

かれは希望に胸ふくらませてすわる。『抗日パルチザン参加者たちの回想記』を2、3篇読むと新たな力がわきたってくる。

ヒョン・ウヒョクは足をひきずりながらもっと高い山に向かってすすむ。衣服は破れ靴底はすりへって穴があく。それでもかれは崖をよじ登り岩石を落とす―。

こうしたむりがたたって悪寒に襲われ、とうとう寝込んでしまったのである。

「ぐちをいわないで、ランプをもっと明るくしてくれないか。眠れそうもないんだ。これを読んでくれ…」

ヒョン・ウヒョクはまくらもとにあった『抗日パルチザン参加者たちの回想記』をクムニョにさし出し、ニヤッと笑った。

(つづく)

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