川崎初級と共に、市民団体「トングラミ」の給食支援
2022年06月30日 10:07 暮らし・活動“私ができること”の実践
「アンニョンハセヨ~。美味しく食べてね~」。6月24日の正午過ぎ、川崎初級の校舎2階に優しい声が響き渡った。その声の主は、月1回、同校への給食ボランティアを行う市民団体「トングラミ」のメンバーたち。ちょうど配膳作業の真っ最中だった。
食欲をそそる香りが校舎内に広がるなか、午前の日程を終えた児童らが、次々と教室から出てきては慣れた様子で列をつくる。
この日のメインメニューはメンバーたちが工夫を凝らした「辛くない麻婆豆腐」。これに中華サラダと新じゃがの煮物、炊き立てのご飯ともやしスープが添えられ、児童・園児らは盛りだくさんの給食を美味しそうに頬張っていた。
同校では、今年に入り、オモニ会が月に1度行う給食づくりとは別に、地域の市民団体による給食ボランティアが行われてきた。1月から3月までの試行期間を経て、本格的に始まったのは今年4月のこと。昨年11月、川崎の同胞高齢者の集まり「トラジの会」が、同校の体育館を利用した際、せっかくだからと、会の参加者向けに準備する昼食を、同校の児童・園児たちにも提供したのが契機となった。
「自分の子どもたちは学校給食が当たり前で、親としてすごく楽だった。それを考えると朝鮮学校の保護者たちが毎日お弁当をつくるのは大変な作業だし、何か手伝えることはないかなと考えていた」
そう語るのは「トラジの会」で5年ほど前からボランティア活動をする平賀萬里子さん(71、川崎市在住)。現在「トングラミ」の代表も務める平賀さんは、ある時、同校との接点がまだなかった時期に抱いていたその思いを、多文化交流施設「ふれあい館」(川崎市桜本)の元館長で社会福祉法人青丘社理事長の三浦知人さんに相談した。すると、三浦さんは「ぜひ実現させよう」と二つ返事で賛同。さらに「広範な市民たちが参加できる団体になればと、年会費500円のワンコイン会員を募ることを提案してくれた」という。
平賀さんと三浦さん、また二人と親交のある趙弘子さんの3人がそれぞれ知り合いに声をかけ、当初は5~6人が集まっての給食づくりだった。そうして築かれた活動の土台があり、シルバー世代から20代まで会員170人の「顔の見える関係」が出来上がっていった。
同校の姜珠淑校長によると、「トングラミ」の活動が本格始動して約3ヵ月が経過したいま、児童・園児らが日常的に食べないものを食べる「良い食育の場」にもなっているという。
そもそも、なぜ給食ボランティアなのか。そのわけを聞くと、平賀さんはこう答えた。
「日本と朝鮮半島の歴史をちゃんと教わってこなかったから、大人になって、多くの衝撃を受けた。例えば、生まれ育った群馬には炭坑があり、そこで働く朝鮮人労働者が、橋の下の掘っ立て小屋で集住していた。その時はだれも教えてくれなくて、後から、あれが朝鮮の人だったとわかった」
旧宗主国と植民地の関係にある日本と朝鮮で、朝鮮人が歩んできた歴史や生活の営みに思いを馳せたとき、その子孫たちが通う朝鮮学校に対し「何かできることをしたい」と思うのは、ある意味自然な思考回路だったのかもしれない。
平賀さんは「自分たちを応援したいと思う人がそういえば身近にいたなと、子どもたちが思い出してくれる存在になれたら、それだけで嬉しい」とほほ笑んだ。
(韓賢珠)
※朝鮮学校など外国人学校の多くは、学校教育法上の「各種学校」に位置付けられているため、各種奨学金制度の対象から除外されているほか、学校保健安全法や学校給食法なども適用されない。よって保健室の設置義務や給食提供の義務がないとして、学校や保護者らがそれらを負担する現状にある。