〈LAZAK創立20周年記念シンポ〉第2部パネルディスカッション/登壇者の声
2022年04月23日 08:00 交流16日のシンポジウム第2部では、李春熙さん(弁護士)がコーディネーターを務め、1部の登壇者を含む5人の識者たちが「在日コリアンの裁判と日本社会の人種主義」をテーマにディスカッションを行った。これに先立ち、現在、在日朝鮮人がどのような問題に直面しているのか、象徴的な裁判として弁護士大量懲戒請求事件*¹および朝鮮高校への高校無償化不適用を巡る事件について、各裁判の担当弁護士から報告もあった。第2部での発言(要旨)を一部紹介する。(まとめ・韓賢珠)
金哲敏さん(弁護士)
弁護士大量懲戒請求事件では、金竜介弁護士とともに原告となり裁判を闘った。当初この事件に触れたとき、ここまで具体的に不利益を課す行為をするというのは、人種差別のステージが一段あがったのではと思えて衝撃的だったのを覚えている。
懲戒請求は弁護士の資格をはく奪しろという攻撃だが、これがもう一段上にいくと、ウトロ放火事件のように、直接的で身体的な攻撃に及ぶのではないか。これを食い止めなくては、関東大震災のような取り返しのつかない段階に至ってしまうのではという恐怖感がある。
金英哲さん(弁護士)
朝鮮高校無償化訴訟は、最終的に各地5ヵ所で行われた訴訟すべてが朝鮮学園側の敗訴となった。
日本の裁判所が国を負けさせるような判決は基本的に書かないという、極めて問題のある現状を再確認した。ひとつ希望があるとすれば、同種訴訟において2017年7月28日に大阪地裁で全面勝訴判決を受けたこと。判決では、文部科学大臣に対して大阪朝鮮高校を無償化対象に指定せよという画期的な内容があった。
裁判所の現状が厳しくとも、この大阪地裁の勝訴判決を経験として、人々が手を取り合い連帯の力で少しずつでも現状を変えていければと思う。
板垣竜太さん(同志社大学教授)
1970年代から90年代にかけて、指紋押捺拒否運動の結果として指紋押捺制度が撤廃され、国籍条項が一部撤廃された。また朝鮮学校への地方補助金制度もこの時代に各地で制度化されてきた。それは裁判や行政交渉、ロビー活動など国内的な運動の結果であり、もう一方では、日本政府が人権規約や難民条約に批准するなど国際的な人権の潮流を意識したことが背景にある。これらは国籍に基づいて差別待遇をする、日本国民を前提とする制度から排除したものを一部是正してきたこと、さらにいえば定住外国人としての権利を一部獲得してきたことを意味する。
しかし2000年代以降、この流れが一挙に止まった。止まっただけではなく、在日朝鮮人への差別や排除の動きが公然化してきた。
これは歴史問題の安全保障化が進み、差別や人権の問題もその論理に加わることで、在日朝鮮人の権利獲得運動を「反日」や「脅威」に読み替える、国民主義とレイシズムが融合する流れが生まれていることに原因があるのではないか。
一方で、指紋押捺拒否運動などは世論に訴えるプロセスがあったからこそ、撤廃へ向けた流れができ、法制度自体の理不尽さも明るみになった。在日朝鮮人の地位の問題に関して日本がすべきことは、定住外国人としての十全な権利を保障し、一方でエスニックな日本国民について社会における常識化・制度化を実現していくとだ。
*¹弁護士大量懲戒請求事件~
朝鮮学校への適正な補助金交付を求める東京弁護士会の声明などを理由に弁護士に大量の懲戒請求が届いた事件。日本弁護士連合会(日弁連)によると、2017年度の懲戒請求受理件数は約13万件に及んだ。発端はネット上で排外主義的主張を行っていたブログ。ブログでは日弁連や各地弁護士会が16年に発表した朝鮮学校の補助金停止に反対する声明が「犯罪行為」であるとし、閲覧者に懲戒請求を呼びかけていた。この呼びかけに呼応した960人が懲戒請求を行った。これと関連し弁護士らは相次いで懲戒請求者らを相手取り損害賠償訴訟を提起。その後、東京高裁判決(19年5月14日付)をはじめ懲戒請求を人種差別だと認めた判決が各地で確定している。東京弁護士会は18年4月26日、懲戒請求のあった同胞弁護士らを懲戒しない旨を明らかにしている。