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ニョメン・オーガナイジング⑥「プネ」に乗る/文・イラスト=張歩里

2024年10月08日 14:46 論説・コラム ニョメン・オーガナイジング

「楽しさ」を共有する

ある日、3歳の娘の鼻歌に「小節(こぶし)」がついていた。「あるこうぉおぉ―、あるこうぉおぉ―」と。突然のことだったので思わず吹き出してしまった。どこでこんなテクニックを習ってきたのかと不思議に思っていると、今度は「わっしょい、わっしょい、そ―れそれそれ、おまつりだぁあぁあ―」と、こぶしの効いた美空ひばりを口ずさんでいた。

そこでようやく解った。数日前にあったニョメン分会カラオケ大会で顧問たちが歌う演歌のマネをしているのだと。子連れで軽い気持ちで参加したカラオケ大会だが、オルシンたちは本気の意気込みで、エントリーした曲をまず1時間各自練習。レジェンドオルシンが「もっと『情景』を感じとって歌ったらいいわ」などアドバイスも行き交う。本番では雪国の冬景色という情景が、ニョメン大先輩の闘ってきた年月と重なり、惚れ惚れする歌声であった。

30代の私が感慨深く聞き入っている一方で、幼い娘たちはこぶしの効いた歌声が「かっこいい」とすっかり虜になっていたのだ。もちろん子どもたちの歌う歌にも皆、熱狂的な合いの手を入れて盛り上げてくださる。1歳から80代までが参加し「楽しさ」を共有することができる場が、新たに開拓できたと思った。どんな状況でも、「楽しさ」をつくりだす創造力がニョメンにはあるのだと、改めて感心した。それにニョメン分会の楽しむ力はいつの時代の変化にも適応する力となって、分会活動の原点になっているのではないだろうか。

「お互いさま」という経験

しかし、分会(プネ)とはいったい何なのであろう? 民族教育を高等教育まで受けてきたが、誰も教えてくれなかった。まして過疎地域で育った私にとっては、分会よりは支部が同胞社会の最も身近なコミュニティであった。

ニョメンの役員会議で自分にとって「分会」とはどのような存在かが話される場があった。あるオンニは東日本大震災の混乱の中、妊娠中だったとき真っ先に手を差し伸べてくれたのが分会のオルシンたちだったと言っていた。私と一緒に活動する同世代のトンムも結婚を機に地方から引っ越してきて顔見知りがいない中、最初に声を掛けてくれコミュニティの窓口になってくれたのがニョメン分会だったと言った。

やはり皆、同胞女性が孤立し不安を抱え、困難な立場に陥ったときに真っ先に手を差し伸べてくれる存在がプネなのだという。しかし、反対に共働き家庭が圧倒的に多く、かたや父親の長時間労働やひとり親家庭による「ワンオペ育児」、子どもの習い事で多忙な日々を送る世代の女性たちは、日々の生活に手いっぱいで、プネ活動なんて到底無理だという言葉をよく耳にする。自己責任化が進むこの社会では、常に何かに追い立てられ、評価の目にさらされているので、若い同胞たちもやはり家族単位が基本となって、日々の生活システム自体がだんだんと個人化しているのだ。

しかし、子育て中の私自身は、親が地域を作ることこそが、子どもの成長への最大の貢献だと思っている。いつかうちの幼い娘たちにとっては、ニョメンカラオケ大会のような分会の集いが、同胞社会の心象風景になるはずだ。

肯定されることが共有されている安心感のある場所で、他者とつながることで、自己肯定感は育つという。

娘たちが「私は何者なのか」を深く考えるときが訪れたときに、幼いころ無意識のうちに同胞生活の基層文化に触れてきたことが、きっと人生の力になってくれる。それに家族以外の誰かと、迷惑をかけ合い支え合って生きていく「お互いさま」という経験、実感は、社会への信頼を育むことでもある。子どもたちが関わりたいと思える大人たち(ニョメンの諸先輩方)がこんなにも近くにいるのは、人生の財産になっているはずだ!

「オンマ、今日も〈プネ〉乗るの?」

分会の会議に参加して、分会には同胞同士の絆をよりよい形で保持し、納得のいく形で方針が決定される「巧みなシステム」が働いていると思った。幾度も話し、反対意見や不満を気軽に吐き出させることで、みんなが納得できる落としどころが探られる。弱者に不利な多数決の民主主義システムではない、地域社会に根付く「分会独自のシステム」がある。

だからニョメン分会は固定的で閉鎖的なものではないと思い知らされる。地元を離れて引っ越してきた人もいるし、新たな人生のステージを探し新天地を開拓した女性もいる。かのじょたちが得た新しい知識や刺激がもたらされることで、長い間分会で培ってきた習慣や英知が、入り混じり常にダイナミックに変貌していく動的なものが分会にはある!

また自分が選んだ気の合った人だけのコミュニティではないからこそ、多様なメンバーが集まることで「チーム」が強くなっていることを実感する。

こぶし使いにハマる娘が、突然「オンマ、今日も〈プネ〉乗るの?」と言ってきた。言い間違いであるが深いではないか! そう、今私は、「プネ」という船に乗り、ダイナミックに揺れ動く大海原を航海中なのだ!

(関東地方女性同盟員)

※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。

(朝鮮新報)

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