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〈ものがたりの中の女性たち63〉これでやっと帰れるわー仙女

2022年12月19日 09:00 寄稿

あらすじ

昔ある所に貧しい樵が母とともに住んでいる。貧しさゆえ30歳を越えても嫁に来る者はいない。

ある日樵は、狩人から逃げる鹿を薪の陰に匿ってやる。九死に一生を得た鹿は、仙女が空から降りてきて水浴びをしている山奥の池の場所を樵に教える。鹿は、水浴びの隙をついて彼女らの羽衣を隠し、天界に帰れない仙女を連れ帰り妻にすればいいとそそのかす。ただし子どもを3人産むまでは、絶対に羽衣を見せてはいけないとも忠告する。

樵は山を分け入り池まで行くと、鹿の言う通り羽衣を盗み、途方に暮れて泣いていた仙女を騙しまんまと妻にする。樵は仙女との間に2人の子をもうける。仙女は、子を2人も成したし、数年が経ったので羽衣を見せてほしいと懇願する。彼女の必死な説得に負けて、樵は羽衣を見せてやる。すると仙女は光の速さで羽衣を身にまとい、2人の子を連れて満面の笑を浮かべ空に昇って行ってしまう。

打ちひしがれた樵の元に、またあの鹿が訪ねてくる。蓮池を再び訪れ、天界から釣瓶が降りてくるのを待てばいいと耳打ちする。釣瓶に乗り天界で妻と子に再会するが、樵が一人置いてきた母が気にかかると言うと、仙女は天を駆ける駿馬を貸すが、何があっても地上には降りてはいけないと言う。樵は天馬に乗り母と再会するが、母が彼の好物である小豆粥を振舞うと、その熱さに粥をこぼしてしまう。熱さに驚いた天馬に振り落とされ、樵は地面にしりもちをつく。天馬は天に帰ってしまい、樵はその場で雄鶏に変身する。それ以来、雄鶏は朝になると狂おしく天に向かって鳴き続ける。

仙女 イメージ

第六十三話 仙女と樵(きこり)

説話「仙女と樵」はわが国だけでなく、中国や日本、モンゴル、インド、イギリスや北ヨーロッパなど世界全域に分布する作品である。「羽衣伝説」や「白鳥の乙女」など題名が違うものもあるが、「仙女あるいは天女、または精霊や妖精の沐浴を盗み見た男が、その衣服や羽衣などを盗んで隠し、帰ることを阻んだ上、強引に婚姻、子を成すが羽衣(不思議な衣服)が見つかり「妻」が天界あるいは異次元に帰ってしまう」という話の筋はほぼ同じである。北欧ではこの説話とは男女が反転した説話も伝わる。我が国での物語の背景は金剛山であることが多い。とても有名な説話であり、バリエーションが多数あり、ハッピーエンドもバッドエンドもある。この説話を題材にした翻案童話や小説、漫画、演劇やミュージカル、舞踊、アニメやゲームも存在する。昔は樵の立場で男性を主軸とした解釈が主であったが、現在は「仙女」の立場での再解釈が盛んに行われている。

美しい「ものがたり」?

 

「花の雨が降った日

初めて2人きりで会ったね

運命だった

幸福という荷を背負い まばゆい恋をしたね」

1980年代に活躍した、ある男性デュオが発表した歌の大まかな内容の一部である。説話「仙女と樵」をモチーフにしており、後半に「仙女を探しておくれ」というフレーズがあるが、自身の別れを悲しい「愛」の説話に託して歌ったものだという。

再解釈「仙女と樵」挿絵

鹿(兎の場合もある)を助けた恩返しで、仙女の秘密を手にした樵。その貧しさ故に彼に嫁いで来る者はいない。

いつも山の神に祈っていたのは、妻が欲しいということだった。ある日降って湧いたように、美しい天人が妻になる。夢のような話である。おまけに子を2人(3人あるいは4人、6人という場合もある)も産み、家事を完璧にこなし、母の面倒まで見てくれる。この世の天国であろう。

幼い頃、説話「仙女と樵」を翻案した童話を聞かされるたびに、怖い話だなと思っていた。自分の身に置き換えれば、お風呂に入っているところを覗かれ、服を隠され、そのまま見たこともない男に連れ去られ、仕方なくその男と結婚し子を産む、ましてや自分とは「異種」である。ホラーだと思った。自分の意思で「蛇の化身」と結婚した少女の説話や、「百足の化身」と結婚した青年の説話とは違い、仙女の意思は完全に無視、「そこに愛はあるんか?」である。

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