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希少性と可能性

2022年10月04日 13:00 取材ノート 論説・コラム

昨年以降、日本各地で行われている「笹の墓標展示館」大阪巡回展を取材した。巡回展は、2年前に倒壊した北海道朱鞠内の「笹の墓標展示館」再建のために、この一帯で行われてきた遺骨発掘活動(東アジア共同ワークショップ主催)の参加者らが中心となり進められている。

かつて「展示館」では、強制労働の犠牲となった朝鮮人や日本人タコ部屋労働者らの遺骨が安置されていた。歴代のワークショップ参加者たちが目にした遺骨は、しっかりと確認できる頭蓋骨から手足の骨と思われる小さな欠片のようなものまで数えきれない。筆者は8月のワークショップ取材に際し、その画像を見ただけで鳥肌が立った。名前も顔もわからない強制連行犠牲者らの存在を想像するには十分な衝撃だった。

一連の活動について関係者らと接する過程で感じたのは、多様なバックグラウンドを持つ朝鮮人と日本人が集うこの場所の希少性と可能性だ。腹を割って話し、時にはぶつかり、理解できない壁に悩みもがきながら、歴史とその文脈の中に生きる自分自身に向き合っている。自分にはそんな経験がどれほどあっただろうか―。

「日本にはまだ多くの朝鮮人犠牲者の遺骨が残されている。この状況は、政府や企業だけでなく遺骨が眠る地上に住む、私たちの責任でもある」(「展示館」再生実行委員会共同代表・殿平善彦さん)

この責任は、今を生きる私たち全員に向けられている。

(賢)

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