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“国定教科書化でわい曲が促進”/来年度導入の「歴史総合」

2021年11月02日 09:51 歴史

朝大・金竜進教授が指摘

いっそう加速する日本政治の右傾化、歴史修正主義により歴史教科書の書き換えに歯止めがかからない。2022年度4月から高等学校に新科目「歴史総合」が導入される。これは2018年に告示された「新学習指導要領」に基づくもの。10月29日に行われた朝鮮大学校朝鮮問題研究センター朝鮮文化研究室研究会で金竜進教授(文学歴史学部)は、日本政府による国定教科書化で教科書記述の歴史わい曲が進んでいると警鐘を鳴らした。

新科目設置の背景

改訂された新指導要領ではとくに社会科目を大幅に再編し、「歴史総合」「地理総合」「公共」が新科目に設置された。歴史科目は、現行で必修の「世界史」が廃止され、世界史と日本史を統合した「歴史総合」となる。2020年度には教科書検定が行われ、今年度に採択が実施された。

金竜進教授は、日本の公教育における戦前戦後の世界史科目の変遷を振り返ったうえで、新たに導入される「歴史総合」が登場した経緯、背景を解説。「歴史総合」の内容を概括し、同科目に反映された朝鮮関連記述とその問題点を指摘した。

金竜進教授(朝鮮問題研究センター提供)

金教授は、「歴史総合」新設の背景として、2006年10月、富山県の高等学校で必修の世界史を履修していない事実が発覚したことに言及。これを機に歴史学者や社会学者の間で、高等学校段階の世界史への理解や関心、意識の低下、また日本市民の世界史意識の孤立化、鎖国化が進んでいるという問題が提起されたと指摘した。

これを背景として2011年、日本学術会議が後の「歴史総合」の基礎となる「歴史基礎」の新設を文科省に提言し、14年6月にも再び高校歴史教育のあり方について提言。これを受けて文科省は15年8月、中央教育審議会特別部会で「歴史総合」「地理総合」「公共」を必須科目にすることを決定した。翌16年、日本学術会議による「歴史総合」に対する提言(5月)に文科省中央教育審議会が答申(12月)。金教授は、「答申では、『歴史総合』において『近代化』『大衆化』『グローバル化』と近現代史を大きく三つの転換点に分けて学ぶとしており、このように区分することがこれまでの歴史成果に基づいて正しいのか、今も議論を呼び起こしている」と指摘した。

内容と問題点

次に、今年3月の検定に合格した12社の歴史教科書における朝鮮関連の記述などから、「歴史総合」の具体的内容と問題点について分析した。

▼日本の近代化▼明治政府の朝鮮政策▼日清、日露戦争▼朝鮮植民地化▼3.1人民蜂起▼関東大震災朝鮮人虐殺▼日帝の朝鮮植民地政策▼朝鮮の分断と朝鮮戦争▼日韓条約と朝鮮▼現代朝鮮▼南京大虐殺、沖縄―の項目別に各社の教科書記述を検証。

そのうえで問題点を、①近代化、大衆化、グローバル化の三つの時代区分の限界②日本の独善的な歴史認識と欧米中心の歴史観に基づいた叙述③現代を理解するための前近代史の不在―の3点に整理した。

江華島事件ついては従来は計画的な軍事挑発であったことが注釈などで記載されたが今回の教科書では具体的な言及は一切ない。関東大震災朝鮮人虐殺は、従来は本文で扱ったがすべての教科書が注釈で扱い、犠牲者数も曖昧に記述した。

とりわけ明成社は、関東大震災や日本の植民地政策、南京大虐殺に関する記述は一切なく、3.1人民蜂起についても他社が「示威活動」「デモ活動」としているのに対し、唯一「暴動」とわい曲した。明成社は日本会議の御用出版社だ。

日帝の朝鮮植民地政策に関する各社の叙述。明成社は言及せず、自国の被害のみ言及した(金竜進教授作成)

また金教授は、「全体的に事実だけを羅列した無味乾燥な記述で、近代における朝鮮の自主的な発展への取り組み、内的な動力に関する記述が一つもない」とも指摘した。

このような教科書記述の後退の要因について金教授は、第一次安倍政権下における改正教育基本法の成立(2006年12月)、第二次安倍政権による「教育再生」などの教育の右傾化政策を指摘。14年1月に発表された「新しい教科書検定基準」は、「未確定な時事的事象について断定的に記述しない」「通説的な見解がない数字は記述しない」「政府の統一的な見解を記述する」などとしている。

今回改訂された新指導要領でも「内容の取扱い」において、「北方領土、竹島、尖閣諸島の編入について」「日本の近代化や日露戦争の結果がアジアの諸民族の独立や近代化の運動に与えた影響とともに、…日本が朝鮮半島や中国東北地方に勢力を拡張したこと」に言及するようにするなどとの記載があり、これに基づかない教科書は検定で不合格となる憂慮が生じる。また、検定意見に沿って教科書を修正する期間は従来の4~5カ月から35~45日に短縮された。

金教授は、「以前は教科書検定において、創意、工夫、現場のニーズに応えるという規定があったが削除され、一括して政府見解に基づく叙述となった。日本政府による圧迫、強要により教科書会社の萎縮、自主規制が生じている。本質においては検定教科書ではなく、国定教科書化が進んでいる」と断じた。

また今年4月、日本政府が「従軍慰安婦」という表現を不適切とし、「慰安婦」を用いるのが適切とした答弁書を閣議決定したことを踏まえ、教科書会社6社が訂正申請を文科省に提出し、承認されたことに言及。東アジアにおける歴史認識の共有や共同研究、歴史研究成果を教育の現場や市民社会に広く普及していく必要性を訴えた。

(金淑美)

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