〈心・技・体~アスリートの肖像 5〉ボクシング・李明浩さん
2015年09月17日 16:56 スポーツ王座は「射程圏内」/恩師の教えが「原点」
大阪帝拳ジムに所属し、プロボクサーとして24戦19勝4敗1分の成績を残してきたフライ級の李明浩選手。32歳となり円熟期を迎えた今、追い続けてきた王座に挑戦するチャンスを虎視眈々と狙っている。
悔しさをバネに
2006年2月、ボクシング人生の新たなスタートを告げるゴングが鳴った。ミニマム級のプロデビュー戦では極度の緊張感に襲われたが「勝てる自信はあった」。アマチュアで50試合(37勝13敗)を経験し、積み上げてきたものに対する確信があったのだろう。
元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎選手に憧れを抱いた幼少期。大阪朝高の入学式で、ボクシング部の白永鉄選手が春の選抜大会で朝高史上初の「全国制覇」を成し遂げたニュースを耳にしたことで、胸にしまっていた好奇心がくすぐられ同部の扉を叩いた。
拳の握り方から教わり当初こそ「楽しさでいっぱいだった」が、すぐに「厳しい指導についていくだけで精一杯になった」。
「学んだものは技術だけではない」。当時、監督を務めていた在日本朝鮮人ボクシング協会の梁学哲会長がなによりも重んじたのは「礼儀」や「規律」。授業態度や日常生活に及ぶまで徹底した指導を受け、心身ともに鍛えられていった。
当時の李選手は「体が小さくて物静か。幼い頃から過度の貧血体質だったため練習で遅れを取ることも度々だった。それでも拳を骨折しても練習に参加しようとする意志の強さを持ち合わせていた」(梁会長)。
食事による体質改善に取り組み、練習では誰よりも地道に努力を重ねた末に、高2でインターハイ出場、高3ではチームメイトとともにインターハイ府予選で朝高ボクシング史上初となる全階級制覇を果たす。しかし李選手は、「全国」の舞台で目立った成績を残せなかった。
「いつか頂点に立ちたい」。悔しさを晴らすために龍谷大学へ。技術が上積みされ「頭を使いながら闘う術」を身につける過程で「ボクシングの幅は一気に広がった」。関西大学リーグでは1、2、3年と全戦全勝。全日本アマチュアボクシング選手権大会、「国体」成年の部に大阪府代表として出場し入賞する活躍も見せた。
主将を務めた4年時は前述した体調の問題で健康診断をパスできず、公式戦への出場が叶わなかった。意気消沈していた最中、後輩を応援していた試合会場で帝拳ジムのトレーナーから誘いの声がかかった。
不屈の闘志
大学卒業後、住まいや働き口を探してくれ、理解の深かった同ジムに身を置くことに。そこで「上のレベルを目指し、勝ちに徹するために」アマチュア時代に築いた接近戦型のファイタータイプからヒット&アウェイで闘うボクサータイプにスタイルを変更。2008年から指導にあたっている安東浩志トレーナー(36)のもとで、日を追うごとに実力をつけていった。
そんな中でも土台にはぶれないものがある。倒されても立ち上がり、闘志を奮い起こして打ち合いを制す。「梁学哲ソンセンニムから教わったボクシングが自分の原点。どんな相手にも気持ちでは絶対に負けられない」。
親、同胞、恩師、ジムやバイト先で出会った日本の人々など、「支えてくれた人たちの期待に応えたい」という並々ならぬ思いから、苦境に陥った時にも不屈の力が沸いてくるという。
プロデビュー戦で勝利を収め、4戦目から13連勝を記録すると、2012年8月にはフィリピンで東洋太平洋王者とのタイトルマッチ、1ヵ月後にはメキシコで元世界王者と拳を交える機会を掴む。
結果は2連敗に終わったものの、闘争心を燃やし壮絶な打ち合いを演じた試合は観る者に感動を与え、各方面から高い評価を得た。その後、世界ボクシング評議会から特別表彰メダルが授与され、WBC世界ランキング14位に食い込んだ。
2年前には奈良初中出身である李選手のために、大阪朝高ボクシング部OBや奈良の同胞たちによる「李明浩母校会」が結成。試合では横断幕を掲げて応援し、練習道具も贈ってくれるという。
たくさんの期待を背負いながら、日々全力で自分と向き合っている。様々な経験を重ねた現在も、そのボクシングは発展途上にある。
「アドバイスを真摯に受け止め、指導が終わった後も一人で黙々と練習に取り組んでいる。これまで見てきた中で、パンチのキレも動きも今が一番いい」と安東トレーナーは話す。
日本フライ級2位、東洋太平洋同級5位。どちらも王座は「射程圏内にある」と自信を覗かせる李選手。「年齢を考えれば決してチャンスは多くない。なにがなんでもチャンピオンベルトを巻いて、応援してくれる人たちを喜ばせたい」。
(李永徳)
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