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〈講演要旨〉朝鮮半島問題と日本の植民地責任/纐纈厚(明治大学特任教授)

2018年09月18日 13:27 主要ニュース 対外・国際

分断システムに便乗する日本の保守

シンポジウム「朝鮮半島和解と東アジア新秩序の模索」(主催・東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会)が8月25日、明治大学で開催された。明治大学・纐纈厚特任教授の報告「朝鮮半島問題と日本の植民地責任」の要旨を紹介する。

天皇制と朝鮮分断の関連性

朝鮮半島情勢が和解と統一へと進む流れを、国際社会が歓迎する中で、日本政府は、拉致問題や「北の核脅威」を喧伝するなど、平和の流れに逆行する動きを見せている。

このように日本が朝鮮半島分断の固定化に固執する理由はなんなのか。その理由を、私は、日本の天皇制存続(国体護持)と朝鮮分断の関連性にみる。

明治大学・纐纈厚特任教授

朝鮮半島分断の起点は、日本の朝鮮植民地支配にある。しかし日本は戦後、米国の統治下で天皇制を存続させることで、天皇制解体に伴う植民地支配責任を回避し、分断システムに便乗してきた。日本を戦後の新アジア秩序形成の拠点としたい米国の意図と朝鮮分断システムは表裏一体の関係で機能してきたといえる。

戦後、米国の日本統治のもと、「国体」に代わり安保が日本の憲法体制を凌駕するシステムとして存在し続ける中で、朝鮮半島における戦争状態の固定化は好都合なものであった。

朝鮮分断システムの崩壊は、まさに日本の安保国体の崩壊を意味する。表向きには今年の南北首脳会談、米朝首脳会談を歓迎する日本政府だが、その深層心理には危機意識がある。その危機意識の反動として、日本社会に反朝鮮意識、排外ナショナリズム、国家主義的な意識が増幅しているといえる。

では、なぜ日本は過去の朝鮮植民地支配責任を正面から捉えることができないのか。

日本政府や日本人の植民地支配責任の希薄さの背景には、日本の国民国家形成と国外での植民地化が同時に進行されたという点をあげることができる。

今年日本は、明治維新から150年を迎える。日本は同時期の1895年に台湾を植民地支配し、国民国家化と植民地化を同時に進める過程で、日本の国民意識のなかに植民地を内地の延長として認識する植民地意識を内在化させた。国内の近代化が進む過程に定着した日本総体の植民地意識の低さが、今日まで続いているといえる。

今年、明治150年を祝う政府主導のセレモニーが大々的に行われる背景にも、近代国民国家の一歩を踏み出したことを前面に押し出すことで、過去の侵略の歴史を隠蔽し、保守政権の基盤を堅持しようという政府の思惑がある。

急変する朝鮮半島情勢

韓国では、キャンドルデモによって文在寅政権が誕生する中で、対米屈従外交に憤りを深め、不平等な韓米関係と従属的な韓米同盟の見直しを求める動きが強まってきた。韓米同盟の見直しを迫る動きは、朝鮮半島の自主的平和統一へと連なる。

このような動きは、朝鮮民族の歴史性・民族性・未来性への確認行為であるといえる。

大国の侵略により、奪われた歴史の主体性や、植民地支配下の皇民化政策によって奪われた民族性を南北が共に回復し、統一を目指すことは、「復元」を越えた「創造」であり朝鮮半島の未来性を担保するものだ。今年行われた南北首脳会談は極めて重要な意味を持つといえる。

これまで米国は、朝鮮戦争休戦以降、北と南に二重の恫喝を続けてきた。米国は、朝鮮に新たな武器を持ち込まないことを定めた休戦協定の13節d項に反し、朝鮮半島に核を持ち込み、合同軍事演習を繰り返してきた。そのような軍事的恫喝の下、北は核武装という形での対抗を強いられた。

また、南のキャンドル革命の根底にも、分断体制下で米国に不平等な同盟関係を強制され続ける中で、米韓同盟を南北和解の大きな棘として認識し、緩和・解体したいという思いがある。米国によるアジア秩序の強制への強い反発が、今、朝鮮半島で起こっていると言えよう。

露呈する脅威論の虚妄性

米国が発表した「国家安全保障戦略」(17年12月)と「国家防衛戦略」(18年1月)には、今後の優先課題が対テロ戦争ではなく、大国間戦争であることが明記された。日本が集団的自衛権の行使を容認し、安保法制を強行採決した背景にも、米国の大陸間戦争の先兵としての役割があった。

日本の防衛省が年内に発表する予定の「統合防衛戦略」と「防衛計画の大綱」にも米国の新戦略に呼応する形での日本の役割が盛り込まれることが予想される。また防衛省は2019年度予算の概算要求で過去最大の軍事費となる5兆3千億円超を計上するなど、戦争のできる国づくりは着々と進んでいる。

日本が喧伝する「北朝鮮の脅威」とは、日米同盟を強化し、戦争の負の連鎖の中で、保守政権の基盤を守るために作為されたものだ。対朝鮮制裁に固執する理由も分断の固定化が日本の保守支配体制にとって有利に働くという思いがあるのだろう。

「北朝鮮は『終戦宣言』などと言っているが、本来北朝鮮がいかに非核化をするか、ミサイルを放棄するかが国際社会の中で一番大事な問題のはずだ」(8月20日、河野外相発言)などという政治家の発言からみてとれるように、日本には、最優先すべき課題としての朝鮮戦争終結への歴史認識が欠如している。保守権力は虚妄の脅威を煽り、朝鮮半島分断による利益を甘受し続ける中で、日朝間の諸問題解決においてのチャンスを逃してきた。

今後日本は、このような「北朝鮮脅威」の虚妄性を清算し、作為された脅威に代わる共同と連帯の方向性の中で、アジア平和共同体の展望を語るべきである。

纐纈厚(こうけつ あつし)

1951年岐阜県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在、明治大学特任教授(研究知財戦略機構)、山口大学名誉教授、政治学博士、前山口大学理事兼副学長。主要単著に、『総力戦体制研究』(三一書房、1981年)、『近代日本の政軍関係』(大学教育社、1987年)、『反〈安倍式積極的平和主義〉論』(凱風社、2014年)、『暴走する自衛隊』(筑摩書房・新書、2016年)、『逆走する安倍政治』(日本評論社、2016年)、最新刊に論文・講演録集『権力者たちの罠』(社会評論社、2017年8月)など多数。

(まとめ・金宥羅)

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