短編小説「通信兵」 11/朴雄傑
2023年06月19日 09:00
「それで、状況はどうなんだ?もちこたえられそうかね?」 もう明らかに通じるのである。南吉はうれしかった。腹の底からこみあげてくるうれしさで胸がつまりそうであった。熱いものがしきりに頬をぬらした。
短編小説「通信兵」 10/朴雄傑
2023年06月17日 09:00
しかしちっとも悲しくもなかったし、恐くもなかった。ただ、力がつきて通話を保つことができないまま死にはしないかということだけが心配であった。彼は必死になって気を失うまいと頑張った。急いで座りなおすと両方…
短編小説「通信兵」 9/朴雄傑
2023年06月15日 09:00
「畜生っ!」 彼はこうつぶやきながら、ポケットから包帯をとりだして、とりあえず傷口にあてがった。誰かいないかと思ってあたりを見回したが、周囲には人っ子ひとりいるはずがなかった。眼に見えるものといえば大…
短編小説「通信兵」 8/朴雄傑
2023年06月13日 09:00
2、3回つよくゆすぶったが、新入兵はぐったりとなったまま眼をあけようともしなかった。南吉はしだいに重くなっていく新入兵の体を土の上に静かに横たえた。そして、その手にぐるぐる巻かれた電線を注意深くはずし…
短編小説「通信兵」 7/朴雄傑
2023年06月11日 09:00
南吉は自分の成功を祈っているみんなの視線を背後に感じながら壕の外に出た。 初冬の冷たい風が枯葉と煙を巻き込みながら谷間から吹きあげてきた。彼は壕を出ると電線をたどりながらすすんでいった。と、いくらも進…
短編小説「通信兵」 6/朴雄傑
2023年06月09日 09:00
母と子は最後まであらゆる拷問に耐えぬいて一言もしゃべらず、とうとう放免された。しかし警察の監視は少しもゆるまなかった。警察とテロ団は彼の家に入りびたっていたし、南吉は一日おきに警察に呼びだされていった…
短編小説「通信兵」 5/朴雄傑
2023年06月07日 09:00
「線のつなぎ方も知らんで、出て行ったって仕様がなかんべ…」
短編小説「通信兵」 4/朴雄傑
2023年06月05日 09:00
こうして5度目の伝令兵が第一中隊に向けて発った。伝令兵を見送った南吉は席を立つと、 「小隊長同志、もう一ぺん行ってまいります」 といった。
短編小説「通信兵」 3/朴雄傑
2023年06月03日 09:00
それは大人が子どもをいたわるような態度であったが、南吉には故郷の叔父たちが思いだされてその素朴さがかえってうれしかった。
短編小説「通信兵」 2/朴雄傑
2023年05月31日 09:00
大隊が防御についたときの高地はまだうっそうとしていて、松やさるなしなどにおおわれていたが、燃えたり掘り返えされたりしていまでは足首が埋まるほどの砂丘に変わってしまった。ところどころ残っている松の木も、…