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【対談】白鷗大学・奥島孝康学長×朝鮮大学校・張炳泰学長

2016年11月09日 09:32 主要ニュース 民族教育

未来の希望をつくる教育を

張炳泰学長“同胞社会を担うオンリーワンの大学へ”

奥島孝康学長“最大を目指すのではなく最良を”

朝鮮大学校創立60周年を記念し、1968年の各種学校認可や同大卒業生の早稲田大学大学院受験資格認定などに深く携わった、白鷗大学の奥島孝康学長(早稲田大学第14代総長)と朝大・張炳泰学長との対談が都内ホテルで行われた。各種学校認可までの経緯や両学交流の可能性などについて話が交わされた。

出席者

張炳泰

  • 1942年京都生まれ。
  • 朝鮮大学校学長。
  • 京都大学工学部、同大学院卒。70年4月から朝鮮大学校理学部教員。理工学部学部長、副学長を経て現在に至る。
  • 朝鮮の化学博士、教授、京都大学工学博士、仏ボルドー大学理学博士。

奥島孝康

  • 1939年愛媛県出身。
  •  白鷗大学学長。早稲田大学第14代総長(94年~02年)。
  • 日本私立大学連盟会長、日本高等学校野球連盟会長などを歴任。
  • 現在、公益財団法人ボーイスカウト日本連盟理事長・特定非営利活動法人富士山クラブ理事長を務める。早稲田大学名誉教授。北京大学名誉博士、フランス教育功労章コマンドゥール受勲。

創立60周年を迎えて

8面用2_R 朝鮮大学校は今年60周年という大きな転換点を迎えました。去る5月29日には卒業生や保護者ら約7,000名が集まり記念祝典が開かれ、11月12日には、対外的な行事も行われます。

奥島 60周年は大学にとっての一つの節目。本当におめでとうございます。

 ありがとうございます。この60年もの間、朝大では約1万7,000人が卒業し、弁護士をはじめ税理士、公認会計士、保育士、Jリーグで活躍するサッカー選手など、民族教育を通じて民族性、人間性を培った学生たちが、卒業後、幅広い分野で活躍しています。

奥島 実は以前、若葉町団地(立川市)に14~15年住んでいて、家族で玉川上水の近くをいつも散歩していたんです。あるとき朝鮮大学校を見物してもいいかと聞いたことがあったんですが断られました。

 そんなことがあったんですか。01年には私が朝大の学長に就任した際、先生を訪ねたことがありました。当時は早稲田大学の総長をされていましたね。

奥島 そうです。あの頃は早大創立125周年を直前にした時でした。その後朝大の記念行事に招待していただいて初めて学内に入りました。

 それが09年の校舎移転50周年記念行事でした。当時先生には記念行事への出席をお願いしてあいさつをしていただきました。その節はありがとうございました。50、60周年を経て今年、民族教育が始まり70年を迎えました。これまでさまざまな紆余曲折もありました。中でも68年には広範な学者・文化人、日本の方々の支援のもと美濃部亮吉都知事(当時)が各種学校として朝大を認可しました。あれからもう半世紀が経とうとしています。

8面用1_R奥島 熱い時代でしたね。あの頃は、社会的にも60年安保の余熱が冷めていなかった。日韓条約締結などもあいまって、政治が目まぐるしく変わりゆく季節でもありました。ちょうど私は早稲田大学で助手をしていて、民族学校とはいえ、予備校ですら各種学校としての資格があるのに、朝鮮大学校が学校としての扱いをうけないことに大変びっくりし、憤慨した記憶があります。それで、民主主義科学者協会というところで、認可取得のための手伝いをしたんですよ。当初、民族学校ということを強く主張されていたが、各種学校というかたちの認可取得となった。当時はその結果にすら逆風が吹いていました。

 認可問題に関しては、当時、日本の一部にかなりの反対もありましたが、各界各層の広範な人々の支援と美濃部都知事の決断があっての結果だったと受け止めています。当時から考えると、先生とは長きにわたりよいめぐりあわせに恵まれました。

受験資格の認定

 過去には先生にご尽力して頂き、早稲田大学大学院の受験資格も認定されました。現在、そちらには朝大の卒業生が20名近くいますが、彼、彼女たちは大学院課程を経て、社会科学や自然科学などそれぞれの専門知識を備えたうえで多方面で活躍しています。

奥島 当時、教務部長だった私が受験資格認定に関する原案を学部長会に出したとき、ある学部からは「日本と国交がない国、日本の大学としての資格を持っていないのに資格を認めるのはおかしい」という話があがった。けれどその際、「日本ではもっていなくとも、本国では大学としての資格を認めている」と話したんですよ。そして「日本と国交のない国というが、それでは台湾はどうなるのか。それならば、台湾の留学生も同様に打ち切らざるを得ない」と。それで認めることに皆が合意するに至ったんです。

 実際に、ほかの大学でも徐々に認められるようになり、私立大大学院への門戸が開かれ、現在では国公立大学院への門戸が開かれています。

奥島 一方で、あの頃は大学という場を心得ていない人も多かったですね。当時私は「皆さん、古代オリンピックはどのようなものかおわかりか」と聞いたことがあります。古代オリンピックは1200年間も続いたといわれていて、オリンピックの期間は休戦し戦争はしない。つまり、大学というのは、オリンピック競技場と同じなんです。どんな対外的問題があろうとも、大学という場では関係なしに、人間と人間として付き合う。そのような場として大学を創りあげていかねばならない。早稲田の教員は国籍を問いません。大学院で学ばれている皆さんには是非がんばってほしいですね。そして、大事なのは未来の希望をつくることです。大学は手をかけて未来のベターワールドを創るために教育し、人材を育てること、それが絶対条件です。その実証となるような成果を学生たちが示すこともまた重要。いま頑張るべきなんですよ。

今年5月に行われた朝大創立60周年記念祝典

今年5月に行われた朝大創立60周年記念祝典

 そうですね。卒業生たちの生き様や活躍が学校教育の水準をみせると思います。

奥島 まさにそう。もっと掘り起こせば、チャレンジできる資格試験はいっぱいあるはずだし、そういうものへどんどん挑戦させ、大学としての実績もあげていく。弁護士や有資格者を多く養成するなど成果をあげていけば、今後も日本社会で変化が起きると思います。

今後の大学教育の役割

 創立60周年を迎え、今後は大学をどのように発展し継承していくべきかという課題もまたあります。たとえば卒業生数の減少なども一つの例です。在日朝鮮人の社会構成や、日本の学校同様に少子化の影響も受ける。そのような状況下で朝鮮大学校にとって、この先もっとも重要になるのは、「継承すること」、「大学を維持し、伝統を守ること」だと思っています。

朝大創立60周年記念祝典での子ども向け催し

朝大創立60周年記念祝典での子ども向け催し

奥島 そちらの大学が民族教育を第一に掲げている以上、さまざまな可能性を秘めていると思います。本国や海外に散らばる朝鮮の子どもたちが集まるような工夫も一つの手。他方では、大学の学問的レベルを上げ、いい人材を育てることが要求されるのではないですか。

 先生のおっしゃるように、朝鮮大学校の教育力、学問レベルを向上させ、人材育成をすることがいま最重要だとなっています。高校生が行きたい大学、保護者たちが送りたい大学、朝鮮大学校の置かれている位置からして、東北アジアの平和と発展に寄与する国際的人材を育てる大学、そのような魅力のある大学にどのように発展させていくのか。まさにそれが一番大事な課題です。

現在朝大生たちは、卒業後弁護士や公認会計士、保育士など幅広い分野で活躍している

現在朝大生たちは、卒業後弁護士や公認会計士、保育士など幅広い分野で活躍している

奥島 それはすべての日本の大学にも共通することだと思います。そして朝鮮大学校なら、将来、特色のある学生たちが国内外から集い、日本で朝鮮語も習い、多様な文化にも親しむことができるとアピールできる強みもありますね。

 ありがとうございます。私どももナンバーワンよりもオンリーワンになろうと努めています。大学へ行けば、朝鮮語や朝鮮文化を学び、朝鮮人コミュニティーのなかで人間関係も構築できる、日本の地域社会に貢献し、朝鮮と日本の科学文化交流と友好親善のかけ橋の役割を果たせる。そのような学生を育てる情熱と実力を備えた教員がいる、魅力のある大学にすることが在日同胞社会の未来につながると思っています。

スポーツ交流協定を結んだ日体大とのサッカー親善試合

スポーツ交流協定を結んだ日体大とのサッカー親善試合

奥島 白鷗大学でも、現在、グローバルな視野とローカルな行動力をもつ「グローカル大学」として大学を位置づけ、大局観と行動力を身につけさせる「リベラルアーツ教育」、そして文武両道を教育方針にしています。また、教育大学に特化するという方針のもと、「最大を目指すのではなく最良を」という精神でやっています。

 朝大では、民族性と集団的な精神をしっかりと身につけるため、創立以来現在までも全寮制を導入しています。実際学生たちは、4年の間に思いやりの心を生活の中から学んでいる。そのことが本学における教育の大きな特徴でもあり、学生の人間形成において非常に重要なことだと思っています。

奥島 本当ですか、それはいいなあ。全寮制だということは知らなかったです。本学でも集団行動、リーダーシップ性の養成も重要と考えています。なぜなら、リーダーを育成することは、世の中に出たとき、自分のベストポジション、自分が社会でどのような役割を果すべきかをわかるようになる。本来学校制度の中に、これが組み込まれるべきです。おのずと身につくような教育をしなければならない。

対談をひかえ握手をする二人

対談をひかえ握手をする二人

 また近年、本学で力を入れているのが大学間交流。学術交流として立命館大、同志社大、延辺大(中国)、そしてスポーツ交流として日本体育大と交流協定を結び、さまざまな形で学生たちが互いに学び理解し、触れ合う機会を設けています。ちょうど11月19日には、本学と白鷗大の関東大学ラグビー2部の試合もあります。白鴎大学ともなんらかの形で交流ができればと願っています。

奥島 十分可能性はあります。大学におけるスポーツは非常に大事な教育部門の一つです。スポーツ自体が、「one for all, all for one」の精神で「万人は一人のために、一人は万人のために」協力しなければいけないもの。早稲田大学総長時代にもスポーツに力を入れたのは、応援するものと試合をするもの、相互の間に非常に固い連帯感が生まれるからです。今後、定期戦以外にもスポーツ交流をやりましょう。

(まとめ・韓賢珠、写真・盧琴順)

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