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〈2016・風景に抗う 8〉「朝鮮人虐殺」の史実明記へ/横浜市・副読本改訂問題

2016年10月21日 11:31 主要ニュース 歴史

横浜市教育委員会が発行する中学生向け副読本の原案に、従来あった関東大震災時の朝鮮人虐殺の記述がないことが6月30日、市民団体の情報公開請求によって明らかになった。その後、歴史学者や市民らの抗議が相次ぎ、市教育委は今月7日の定例会で一転、虐殺の史実を記載する方針を示した。今、教育現場で歴史修正主義の動きが加速している。

右派による攻撃

「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」の北宏一朗代表

「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」の北宏一朗代表

「ついにここまで来たか」。6月、「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」の北宏一朗代表(75)は、副読本の原案を手に動揺を隠せなかった。関東大震災を説明するページからは、「朝鮮人虐殺」の記述の一切が消えていた――。

市が独自に発行する副読本に関東大震災時の朝鮮人虐殺の史実が載ったのは74年から。90年には副読本の改訂にあたり、指導課長から学校長宛に次のような通知が発出された。

「従来の記述は、震災時の軍隊や警察、自警団による朝鮮人虐殺事件の事実や背景について一切触れておらず、当時のデマがあたかも事実であったかのような印象を与える恐れがありました。このことは、わが国に根強く存在する韓国・朝鮮人に対する偏見や、ひいては差別意識を再生産することにつながります。教育委員会は、このような反省に立ち、在日外国人(特に韓国・朝鮮人)児童・生徒の人権尊重の教育を一層推進する決意をもって今回の改訂を行ったものであります」

当時、虐殺の主体が軍や警察であることが市が発行する副読本に明記されたことは、「画期的な出来事」だった。

しかし、2012年の産経新聞の記事(6月25日付)をきっかけに事態は急変する。同記事を市議会で取り上げた保守系市議は副読本の「軍隊、警察が虐殺」という内容が「我が国の歴史認識や外交問題に極めて大きな影響を及ぼしかねない」と批判。これを受け、市教委は書き換え手続きの不備を理由に関係職員を処分、翌年には12年度版の回収を行った。

消された「史実」

通知に示された「反省」と「決意」。わずか四半世紀の間に、市自らの手でその判断は覆された。13年度版の改訂では、軍や警察の関与ばかりか、震災当時子どもだった日本人が虐殺に対する謝罪と反省のために建てた慰霊碑の写真までが市独自の判断で削除された。

13年度版副読本から削除された、関東大震災殉難朝鮮人慰霊碑

13年度版副読本から削除された、関東大震災殉難朝鮮人慰霊碑

北さんは「本来は教育への政治介入をはねのけなければならない教育委が、政権の意図を汲み、先回りして、史実を隠蔽する。関東大震災の教訓をしっかりと伝えなければ、他民族を差別し、そして殺すような子どもたちが育ってしまうかもしれない」と危機感を募らせる。

政府は6月、関東大震災時の虐殺事件への政府の関与の事実認定を求めた野党議員の質問主意書に対し「事実関係を把握できる記録が見当たらず、回答が困難」と答弁。事実認定を拒んだ。

しかし、公権力の関与については長年の歴史学者らの研究が証明している。97年には、軍による虐殺行為を裏付ける「関東戒厳司令部詳報」が都公文書館で発見され、また内閣府中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」が09年に出した報告書では「軍隊や警察、新聞も一時は流言の伝達に寄与」「爆発や火災の延焼、飛び火、井戸水や地水の濁りなど震災委の一部を、爆弾投擲(とうてき)、放火、投毒などのテロ行為によるものと誤認したことが流言の一原因」と結論づけている。

部分的勝利

歴史修正主義の台頭に危機感を感じる市民たちが「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」を発足させたのは副読本改訂問題が浮上した2012年7月。同会は、市教委に対し、数回にわたり質問状・要望書を提出、話し合いを通して問題の詳細を探った。またメディア各社の報道によって問題が可視化され、全国から市に対しての抗議の声が寄せられた。

その動きの中で、市は7日の定例会議で「異例」の説明を実施。副読本の作成を担当している指導企画課の三宅一彦課長は「史実にもとづき、横浜で起きた痛ましい出来事を学ぶことで歴史の理解を深め、防災教育の面からも多面的・多角的に考えることのできる記載になるよう検討している」と虐殺の史実を記載することを前提に作業が進んでいることを述べた。虐殺の背景まで詳述した旧副読本はデータ化され、生徒たちの閲覧が可能になるという。

削除から一転、掲載の意向を示した市の対応。北さんは「市民の行動が一つの歯止めとなった」としながらも、

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