ニョメン・オーガナイジング⑱スクロールの時代、誘いの温度を考える/文・イラスト=張歩里
2025年12月05日 09:38 ニョメン・オーガナイジング「誘うこと」の再考
本欄で前回、日本の近所の友人たちを「誘う」ことについて考えてみた。ところがふと気づくと、最近は同胞の集まりやイベントのお知らせも、SNSで一斉に送られてくるのがすっかり主流になっているではないか。
便利だし、送り手にとっては間違いなく「効率的」だ。とくに、私たちセセデニョメン同胞の世界では、もはやこれが「当たり前のやり方」になっている。実際、私自身が中心メンバーとして企画する行事のチラシだって、すべてライングループへ流している。
各家庭のスケジュール帳より、どう早く予定を「先取り」できるかが勝負だと思い、とにかく急いでチラシを作り、一斉送信する――そんな流儀がいつの間にか身についてしまった。

送った瞬間は「これで大丈夫」と安心するが、忙しいニョメン同胞の大概は「通知の中に埋もれて見逃してた!」となるのだ。
けれど、ひとたび自分が「受け手」になると状況は違ってくる。
お誘いはあちこちから届き、既読をつけてスタンプを返した瞬間には、もう「半歩くらい記憶の外側」へ押し出されてしまう。子どもが寝たあと、スマホを眺めながら通知を流し読みしたときの「あの感覚」――確かに読んだはずなのに、翌朝には何ひとつ覚えていない。
コロナ禍は、この状況にさらに拍車をかけた。直接会えない時期、私たちは「声をかける」という行為すら慎重にならざるを得なかった。その結果として、ラインやSNSの一斉連絡こそが「安全で便利な方法」として完全に根づいてしまったのだ。
そして今。コロナが明けて顔を合わせられるようになったはずの私たちセセデは、実は「絶賛コロナ禍にニョメンデビュー」した世代であるがゆえに、あの時期に身につけたコミュニケーションのクセを、無意識のうちに引きずっている。一斉送信で済ませることが当たり前になり、個別の誘いに込められていた温度は、少しずつ伝わりにくくなっていく。その過程に気づかないまま、「誘う・誘われる」という「関係の手触り」は、いつの間にか薄くなってしまっているのではないか。
「誘い」がただの「情報」に
今、私たちは「スクロールの文化」の真ん中にいる。次々に届くメッセージ、通知、既読の波。スクロールを止めるか、流すか? 多くの場合あの小さな「チラシ画像」は流されていく。下から上へと動く指先の勢いの前では、せっかくのお知らせも数秒で過去へ押し流されてしまう。コスパ、タイパなど効率を求める言葉が私たちの日常を覆うなか、「早く伝えること」が正義になり、「一度に済ませること」が必須になった。しかし、その便利さには目に見えない落とし穴がある。
一斉配信の連絡は、誰にとっても「同じ文面、同じ熱量」で届く。たとえば「今度のイベント、来られたらぜひ〜」というあの定型文。悪気はないのに、どこか「誰に向けてでもない言葉」に感じられる瞬間がある。仲間のはずなのに、「まとめて送信される情報」になった途端、関係の温度がふっと下がる。
「私が行っても行かなくても同じかなって思っちゃって…」。実際よく聞くこの言葉だ。
効率は、温度を奪うのだ。関係が効率に飲み込まれたとき、誘いはただの情報になる。
仲間内ではとくに、「誰かが来るだろう」「返信しなくてもわかるだろう」という暗黙の了解」が生まれやすく、結果的に参加率は下がり、「関係の手触り」は薄くなる。近いはずの関係ほど、実はこの影響を強く受けるのかもしれない。スクロールすると消えてしまうような「軽さ」で届く誘いは、同胞を繋ぐ力を弱めてしまうのかもしれない。
止まる指先、育つ関係
もちろん、みんな忙しい。だから合理的な手段は必要だ。しかしその便利さにすべてを委ねず、相手の顔を思い浮かべるための「余白」を残しておきたい。
年末、ニョメンの先輩からの「今年最後だから、お茶しようよ」。たったそれだけのメッセージだが、忙しい年の瀬で、誰かが「私」を思い出してくれた事実だけで、どうにか「時間」を捻出したくなる。
誘いとは、本来もっと「顔のある行為」だった。その人と過ごす時間を想像しながら声をかける行為。その積み重ねが、関係性がゆっくりと関係性を育てていく。誘われる経験は、たとえごく小さくても嬉しい。「あなたと一緒にいたい」と思ってくれたことが人の心を温める。そしてそれが、季節のたびに、行事のたびに、さりげなく繰り返されることで、信頼は少しずつ形になっていく。
自分のためだけに届いた短い声かけは、不思議と指先を止める。スクロールを止めるという行為そのものが、「仲間」という実感を与えてくれる。効率に流されがちな時代だからこそ、誘いに宿る「あの小さな温度」を守りたい。それこそが、ニョメンの繋がりをいっそう豊かにする力になるのではないかと思う。
(関東地方女性同盟員)
※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。
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