〈ものがたりの中の女性たち91〉刺した傷跡は18ヶ所-金銀愛
2025年07月02日 09:00 文化・歴史あらすじ
金銀愛(キムウネ)は康津(カンジン)縣塔洞(タプトン)里の良家に生まれる。同じ村に住む元妓生の安老婆は、疥癬のせいで全身をかきむしるため傷が絶えず、そのせいで性格が険しく、いつも悪態をつき、人を攻撃する。生活に困ると銀愛の母に米や豆、塩などの施しを求めたが、時々思うようにいかないことを逆恨みし、恩を仇で返すことを思い立つ。自分の夫の妹の孫である12、3歳の崔正連(チェジョンリョン)と銀愛が姦淫していると噂を広め、彼女の尊厳を傷つけ、無理やり崔正連と結婚させようとする。崔正連には成功報酬として、自身の疥癬の薬代を負担させる約束を取り付ける。ところが、銀愛の人柄を知る金養俊(キムヤンジュン)という青年は、そんな噂を信じず銀愛と結婚する。それから2年が過ぎた頃、銀愛は安老婆を刃物で殺害する。当然銀愛は逮捕され、厳しく取り調べられるが、彼女は毅然と申し開く。両班の娘として正しく身を慎み、崔正連とは口もきいたことがないのに、安老婆に濡れ衣を着せられ、村中から白い目で見られ、汚い噂を立てられ、それでも自分のことだけならと耐えていたのに、結婚後2年間も婚家を巻き込み口さがない噂に苦しめられ、恩ある夫や義両親のことまで悪く言われ、これ以上耐えられず犯行に至ったと。人を殺害したことに違いはないので、罰は受けるとはっきりと言う。縣監は同情するが、仕方なく上に報告する。すると王は、尊厳と貞節を守った女人が陥れられ、名を汚されたことは誠に無念なことだろうと、銀愛を釈放するよう命じる。
第九十一話 銀愛傳

金銀愛 イメージ
「銀愛傳」(ウネジョン)は、朝鮮王朝後期の実学者であった李德懋(リドンム1741~1793)の文集「雅亭遺稿」(アジョンユゴ)収録の漢文の傳。1790年に全羅道康津で起こった実在の殺人事件を、朝鮮王朝第22代王正祖が獄案(裁判の調書)の審理過程で、金銀愛の事案に注目し釈放を決めた後、李德懋に顛末を傳に書かせたという。「金銀愛事件」は、