〈読書エッセー〉晴講雨読・朝鮮現代史と叢書『不滅の歴史』(上)/任正爀
2025年02月05日 09:00 寄稿今年8月15日で祖国解放80周年となる。その日を朝鮮現代史の起点とする考えもあるが、朝鮮ではそのために金日成主席が革命活動を行った時期からとしている。そうすると、今年で朝鮮現代史はほぼ100年となる。
その歴史をきちんと知ろうとすると、教科書的な本を読むことになるだろうが大変である。そこで大きな助けとなるのが、金日成主席の革命活動を描いた大河小説である。叢書『不滅の歴史』である。これまで数十巻が出版されているが、それぞれの巻には主人公というべき人物が登場し、その時代にどのような出来事があったのかを興味深く知ることができる。刊行初期は実在の人物も仮名であったが、今は実名あるいは一字だけ異なる。小説とはいえ歴史的事実に基づいており、朝鮮では正史に準じるものとなっている。そのような書籍について専門家でもない筆者に評論はできないが、一愛読者としての感想と周辺の文学作品について述べてみたい。
『不滅の歴史』の刊行が始まったのは金日成主席生誕60周年に当たる1972年で、記念すべき最初の巻は『1932年』だった。題名が朝鮮人民革命軍創建の年であることは、改めて強調するまでもないが、著者は本紙に掲載された『百日紅』の作者クォン・ジョンウンである。当初、執筆は「4・15文学創作団」となっていたが、現在は著者名が明記されている。
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『不滅の歴史』抗日革命闘争時期編一覧
同書は解放前・後の二編に分かれるが、【一覧】は抗日革命闘争時期編として刊行された1988年まで全15巻の題名と時代、執筆者の一覧である。その後、『天地』、『解放前夜』、『血に染まる広野』などが加わった。第1巻『帆は挙がった』は1925年から始まるが、それを金日成主席の革命活動の起点とするならば、まさに朝鮮現代史は今年で100年となる。抗日革命闘争を克明に描いており、金日成主席の回顧録『世紀とともに』を補完する書籍といえる。
大学生の頃から今も読み続けているが、とくに印象深いものを挙げてみよう。
まずは、革命詩人と呼ばれた金赫同志を主人公とした第3巻『銀河水』である。若い人たちは「同志」という用語に違和感があるかもしれないが、筆者らの世代では文字通り指導者と志を同じくし共に闘った人たちへの尊称である。朝鮮独立の志を抱くも先が見通せず苦悩する主人公が、若き日の金日成主席(当時は金成柱)と出会い、彼の指導の下に独立運動に命を捧げる姿を描いたものである。
『銀河水』が出版される2年前の1980年に映画「朝鮮の星」第1部が公開されたが、その主人公が金赫同志であった。スクリーンに若き金日成主席が登場し話題となったが、演出が「成長の途上にて」、「遊撃隊の五兄弟」で主人公を演じた厳吉善であることも注目された。題名は金赫同志が作詞・作曲した歌によるが、彼の苦悩を現した劇中歌もあった。
「遥かな夜空に銀河水が流れるが/祖国は万里か、空と地の果てなのか/国を失った男、周りを見渡せど/広漠なこの天地に生きる場所がない」
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『銀河水』
この歌が記憶にあり、小説の題名もそれに由来するのではと思ったのだが、そうではなく小説の「銀河水」は若き指導者のもとに集まった青年共産主義者たちの群像を意味していた。映画の第2部は日帝の官憲に取り囲まれた主人公がビルから飛び降り絶命する場面で終わるが、実際の金赫同志は瀕死の状態で逮捕され、旅順監獄で獄死している。
著者は『石渓谷の新春』、『大河は流れる』などで知られる千世峯で、彼の作品は深刻かつ複雑な人間関係を描くことが特徴的であるが、それが過ぎるとして批判された作品もある。抗日革命闘士・崔賢同志を主人公とした『霧が流れる丘』である。革命家の典型化と階級路線の具現、革命伝統の形象化において問題ありとされたのだが、筆者は興味深く読んだ。ちなみに、金正日総書記の革命活動を描いた叢書『不滅の嚮導』の『転換』に、作家同盟委員長として千世鳳も登場する。
もう一冊挙げるならば、第15巻『峻厳な戦区』だろうか。主人公は金日成将軍がもっとも信頼する7連隊長・呉仲洽同志である。第13巻『苦難の行軍』の主要人物でもあるが、『峻厳な戦区』で非業の死を遂げる。ある夜、彼の死を悼む金日成将軍が軍医官と会話する場面は心に残る。この軍医官は開業医で、隊員の治療のため請われて密営に赴く。そして、金日成将軍をはじめ隊員たちと接するなか、自らパルチザン軍医の道を選ぶという重要人物である。ちなみに呉仲洽同志の名前であるが、当初『苦難の行軍』では安忠烈、『峻厳な戦区』では呉仲勲で、それぞれの改訂版から実名となった。
著者は金秉勲で、本紙掲載の『道ずれ』、『海州-下聖からの手紙』とともに、代表作として知られるのが『燃える時節』、『森はざわめく』である。前者は青少年の革命家への成長物語であるが、ちょうど筆者が大学生の頃に出版され、後述する石潤基『生い茂るひまわり』とともに朝大生の愛読書であった。後者は敵に包囲されたパルチザン部隊がほとんど全滅し、残った隊員があらゆる困難を乗り越え本隊に戻る姿を描いたものである。シチュエーションが極端であると批判されたと聞いたことがあるが、筆者の好きな小説である。
当初、4・15文学創作団・団長を務めたのは石潤基で、『大地は青い』、『春雷』、『苦難の行軍』、『豆満江地区』の4巻を執筆している。それぞれ興味深く読んだが、後に著者が石潤基だと知って納得した。本紙に連載された『幸福』、『戦士たち』もそうであるが、彼の小説には清々しい哲学がある。
『生い茂るひまわり』、『時代の誕生』1・2部の著者としても知られているが、前者の主人公は抗日革命闘士・金策同志である。その名前を知る人は多いだろうが、金日成将軍とは異なる地域で活動しており、抗日革命闘争時期編では登場することはなかったように思う。ただし、解放後編には金策同志の活躍を描いた巻は多い。
『時代の誕生』は朝鮮戦争を正面から描いた作品で、その題名は朝鮮が米国との戦争に勝利することによって、新しい時代が切り拓かれることを示唆している。全4巻が想定されたが、残念ながら戦争第二段階すなわち一時的後退時期で終わり、未完の大作となってしまった。
(朝大理工学部講師)