わたしたちの「家」~寄宿舎が育むもの~①広島初中高
2025年01月17日 09:00 わたしたちの家 民族教育親元を離れて暮らして
家庭教育、学校教育、社会教育-。子どもが育つうえで様々な教育が施されるが、親元を離れて暮らす朝鮮学校の寄宿生らは、どのような教育に接し、いかに成長を遂げているだろうか。連載「わたしたちの『家』~寄宿舎が育むもの~」では、各地3校の朝鮮学校の寄宿舎を訪ね、そこで暮らす生徒たちに迫った。
生活の知恵と自立心
広島では1953年、広島県安芸郡に広島中級が創立され、60年の高級部併設に伴い、中四国、山陰地域から通う生徒らのための寄宿舎が設立された。
その後、改築を経て4階建て寄宿舎が落成されたのが71年のこと。
96年には、県内の初中高級部の統合、また校舎移転に伴い、広島市東区山根町に現校舎と隣接する寄宿舎「広島朝鮮学園寮」(平和寮)が新たに建てられた。
現在、この寄宿舎に14人の生徒たち(岡山出身9人、愛媛出身4人、山口出身1人)と舎監4人の他、教員1人が暮らしている。
地下1階(駐車場)、地上3階建ての寄宿舎の入り口は、男子寮と女子寮とで分かれており、それぞれの入り口から入ると食堂へとつながる。男女共用スペースは食堂のみで、同じ階に風呂場が、3、4階が生活スペースというつくりだ。
生徒たちは下校後、18時30分ごろから夕食をとり、その後19時45分まで自由時間を過ごす。その間に、ドラックストアやコンビニに行き洗濯洗剤やティッシュなど諸々の生活必需品やお菓子などを購入するという。
筆者が同校の寄宿舎を訪ねた10月下旬、舎内に入ると「コンビニの方が近いけどドラックストアの方が安いよね」「買い物は効率よくいかないと」と生活力をのぞかせる生徒たちの姿があった。聞けば、親からの仕送りで暮らしている生徒が半数以上だという。
今年から寄宿舎生活を送る朴世昊さん(高1、岡山出身)は「仕送りをなくして生活ができなくなると思い本当に焦った。実際は口座に預金していたのをすっかり忘れていただけで事なきを得たが、お金って大事だなと思うと同時にしっかり管理しなくてはと思った」と襟を正した。
一方で、レストランで接客業のアルバイトを行う朴智勇さん(高3、岡山出身)は「寄宿舎生活を始めてから、生活の身の回りのことを一人でやっていくうちに、生活費も自身で稼ごうと思った」という。「お金を稼ぐ」ことの大変さを身に染みて学んだ朴さん。「少しは親の負担を減らせてるのかなと思う」と孝行息子のたくましい一面をのぞかせた。
また、朴智勇さんと同様に下校後にアルバイトに行っているという高愛鈴さん(高3、愛媛出身)も「親と離れて暮らしてみて、普段家でいろんなことをサポートしてもらっていたのだと気づいた」と打ち明ける。「自分は8人きょうだいの長女なので、しっかりしなくてはと思い、アルバイトを決意した。社会経験にもなるし前向きに楽しく頑張っている」(高さん)
現在同校では、各家庭の現状を考慮し個別にアルバイトが許可されている。そうした中、寄宿生たちは、生活するうえで必要な金銭的リテラシーを実生活で身に着けると同時に、自立心をも育んでいた。
身をもって感じる愛情
寄宿舎を訪れた日は月曜で、寄宿生たちは思い思い過ごした後、19時45分に食堂に集まり点呼をとった。寮長の権悠司さん(高3、愛媛出身)が人数確認を行い、その後共用スペースの食堂はじめトイレや風呂場、水道などを全員で掃除をした。掃除一つするのにもじゃんけんで大盛り上がりの寄宿生たちは、この日課を欠かさず行っている。
権さんは「ぼくたちの寮には、同胞たちの愛がたくさん詰まっている。昨年、同胞たちがお風呂をボイラー式から給湯式に替えてくれた。新しい仕様の風呂場でみんなが大合唱している」と楽しそうに話した。権さんと同じ愛媛出身の高悠邦さん(高3)も「ウォーターサーバーにテレビなど何不自由なく暮らせるように、同胞たちがいろんなことを気にかけてくれる。各地の朝高の寄宿舎はよくわからないが、たぶん平和寮がどこの地域よりも愛されている」と自負した。
生徒らの寄宿舎自慢は尽きない。かれかのじょらの自慢であり、魅力の一つが「全体食事」だ。
この「全体食事」は今から10年前、広島県東地域青商会が始めたのをきっかけに現在では、地域の総聯支部や女性同盟、青商会、オモニ会など多くの団体が携わるイベントだ。関係者たちは年間計画を立て、当番制で月に1回ほど寄宿生に夕食を提供している。
舎監主任の金美慶教員は「地域の同胞たちがわが子のように、寄宿生たちに尽くしてくれている。かれらはその愛を素直に受け入れ、常に感謝の気持ちを忘れることはない」と話す。同胞たちの愛がつまった施設だからこそ、寄宿生たちは「おのずと寮の設備を大事にしようと掃除を欠かさず行う」という。また「日ごろから、同胞たちからの愛を存分に感じているため、愛されている自覚を持ちながら暮らしている。それにより、自己肯定感が高まり寄宿舎生活だけでなく学校生活でも明るく皆を引っ張って行く存在となっている」と話した。
きょうだいのように
同校の寄宿舎では入寮後1カ月間、生活上の不便がないように上級生が新入生をサポートしながら共同生活を送る。
「洗濯も部屋の片付けもめんどくさいことばかり。自習時間も決められていて嫌だなって思うことも多い」といたずらに笑う李梃勲さん(高1、岡山出身)。李さんは「それでもルームメートや先輩たちと過ごしていると楽しい」と話した。
そんな李さんと一緒に共同生活を送った権さんは、「身の回りの洗濯や掃除など、これまで親に任せきりだったことを自分でやらなくてはならない。1年生の時は自分も今の梃勲みたいに慣れなかった」と当時を振り返り「寄宿舎生活をすれば、ある程度の生活力が身についていくから」と李さんを励ました。
李さんの実の兄である李梃慶さん(高3、岡山出身)は「実家から寮に帰ってくると、どこか寂し気な顔をしている梃勲だが、同級生たちと会うと元気になるのでホッとする。自分の同級生たちも弟をかわいがってくれていてありがたい」と話した。「本当にみんながきょうだいのように暮らしている」。(李梃慶さん)
一方、「入寮当時の4月は毎晩のように泣いていた。スマホに保存してある家族の写真を見る度に、寂しさがこみあげてきた」と話すのは李樹亜さん(高1、岡山出身)だ。樹亜さんは「広島朝高に進学すると決めてからは、『寄宿舎はつきものだ。どうにもこうにも、避けては通れない道だから頑張るしかない』と覚悟していたが、涙が込み上げてきた。そんな時にそばにいてくれたルームメートは本当に大事な存在だ」と言い一緒に暮らす同級生の存在が励みになっていると話した。
寄宿生同士の仲の良さがピカイチな広島初中高では、寮長をはじめとした寄宿舎独自の委員が構成されており、委員らが中心となった文化行事なども舎内で行っている。
同校の朴志晙校長は「たくさんの愛情を注いでくれる同胞たちに対し『恩返ししたい』という精神が育まれるのは、寄宿生の強みだ。何のために、だれのために生きていくかを寄宿舎生活を通じ学ぶ生徒たちは頼もしい」と話した。
実の親然り、同胞たちからの愛情を自覚し、受けた恩を一番身近な存在である学校や友人との生活の中で具現化しながら、将来を見据えていた生徒たち。学校とは別の空間で、かれかのじょらの「心の成長」が垣間見えた。
(李紗蘭)