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故郷の味を追い求めて/金サラン

2024年07月19日 08:52 それぞれの四季

父が在日朝鮮人、母が日本人のわが家では朝鮮料理が食卓に並ぶことはほとんどなかった。いとこによるとハルモニは料理上手だったそうだ。しかし父に聞いても「貧しくて子どもの時は食べ物らしいものを食べていない」の一点張り。就職のため若くして家を離れ、ルーツを隠してきた父は本当に覚えていないのかもしれないと思っていたが、2人でソウルを旅した際、突然「かあちゃんが作っていた太刀魚の煮つけ(カルチチョリム)が食べたい」と言い出し、探し出したお店の太刀魚の煮つけを「懐かしい」と頬張る姿に、父にも脈々と受け継がれた故郷の味があるのだと嬉しさと同時にうらやましく思った。

父子の間で途絶えた故郷の味を追い求めて、友人たちのオモニのレシピを聞いたり、在日朝鮮人女性から料理を学ぶ企画に関わったりするようになった。

野草を採ってナムルやスープを作り、川で捕まえた沢蟹を醬油漬けにし、慣れない日本での暮らしの中で工夫しながら生きてきた姿を想像すると心揺さぶられる。レパートリーが増える度、また一つ朝鮮民族を取り戻し、肯定できたという喜びが湧く。レシピに頼らずとも、いつか自然に作れるようになったとき、私はその味を父にみてもらいたい。一緒に美味しいねと言いながらその幸せを噛みしめたい。故郷の味がよみがえり父や私の生きる糧となっていくことを信じて歩みつづけたい。

(兵庫県尼崎市在住)

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