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〈ものがたりの中の女性たち79〉「祖国へ向けた矛先を収めなさい」―鹿足夫人

2024年05月20日 13:45 寄稿

あらすじ

高句麗時代、平壌に「鹿足夫人」が住んでいた。足が鹿の脚のようだとそう呼ばれる。息子が3人いたが、彼らの足も鹿の脚のようだった。近所の子どもたちがはやし立てるので、夫人は息子たちにいつもポソン(足袋)をはかせる。しかし、末の息子がうっかり脱いでしまい、それを見た村の子どもがひどく馬鹿にし、執拗に末息子をいじめる。上の兄が怒りに任せてその村の子どもを殴ると、打ち所が悪くその子どもは死んでしまう。よりによって村一番の富豪の家の子で、鹿足夫人は後顧を憂い3人の息子を連れ小舟で逃走、さびれた海辺で暮らすことになる。子どもたちに舟から降りてはいけないと言い聞かせ、鹿足夫人は食べるものを探しに出かけるが、運悪く台風が襲来し小舟は海に流されてしまう。突然消えてしまった子どもたちを探し夫人はあてどなく彷徨うが、またいつ戻るとも限らないという想いから海辺に戻り、ひとりで生きていくことに。隋が高句麗に攻めてくると、元々武家出身で腕に覚えがあった鹿足夫人は、かつて彼女の夫の門下生であった乙支文德将軍を追いかけ従軍する。

ある日将軍が、敵陣に入った後に自陣に帰る際、敵の追撃を受け危機に瀕したとき、鹿足夫人は予め事態を予測し待機させていた船で将軍の命を救う。隋との戦いの中、夫人は敵軍の中に鹿足将軍と呼ばれる武将がいることに気がつく。危険を押して敵陣に切り込み、行方不明になっていた三兄弟を探し出す。彼らのポソンを脱がせ足を確かめると、まごうことなき鹿足である。やっと探し出せた息子たちを前に、鹿足夫人は教え諭す。高句麗は祖国なのだと。息子たちは母の教え通り、母と共に敵陣を抜け出し高句麗の陣営に加わり、将軍を3人も失い混乱の極みであった隋を蹴散らし、乙支文德将軍に勝利をもたらす一助となる。侵略者を追い出した後、鹿足夫人と鹿足兄弟は末永く幸せに暮らす。

第七十九話 鹿足夫人の伝説

「鹿足(ロクチョク)夫人の伝説」は、平壌や安州地域一帯を中心に広く伝播されてきた説話である。古代から長きにわたり民衆の口伝で広まり、朝鮮王朝時代以降に文字で記録され定着したと思われる。それは口碑文学として伝わり、現代では童話や小説に翻案されている。鹿足夫人のような半人半獣の主人公が一貫して登場する説話は、わが国では神話以外には珍しいと言える。古典小説や野史、野談に登場する半人半獣は、大抵天帝が与えた「試練」を乗り越えると完全なる「人」になり、その天寿を全うすることが多い。

乙支文德将軍 肖像画

わが国でも、また日本や他の多くのアジアの国々、欧米などでも、半人半獣の神が登場する神話があり、現代では半人半獣の登場人物が活躍するファンタジー映画やアニメ、マンガやゲームなどが多岐に渡り発表されている。

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