〈ものがたりの中の女性たち 43〉「真の君子がいないならこのまま老いるだけよ」/紅桃花
2021年03月21日 08:30 主要ニュース 文化・歴史あらすじ
才色兼備で誰よりも志の高い紅桃花(ホンドファ)と柳枝蓮(リュジリョン)という妓生がいた。ふたりは自分たちの生涯の伴侶としてふさわしい理想の男性を探し求めて、大金を払い妓籍を抜け漢陽にたどり着く。ところが彼女らの目にかなう男性はなかなか見つからない。そんなある日、弘齎院で武官たちに嫌がらせを受け笑い者になっている李春風を発見する。
彼女らが目にした春風は、大貴族の長男で眉目秀麗、出世に興味がなく出仕を拒み読書に明け暮れ、男女の理も嫌悪する極端な道徳の持ち主である。桃花と枝蓮のふたりは、李春風の高い学識と出世を拒む一途な学問熱、その高邁な精神を考えると容易く近づける相手ではないことを悟る。まず二人は男装し、道学を極めたいからと彼に弟子入りする。二人は十九歳、春風二八歳である。桃花と枝蓮は弟子らしく学問に熱中し、春風の学問の深さにますます惹かれていく。彼女らは自らの情熱を冷静に理性で抑えながら時を待つ。一年が経つと師弟関係は信頼へと変わり、春風は(男装した)彼女らに心を開いていく。
桃花と枝蓮は、古の王族の遺跡があり山河が美しい平壌に旅行しようと提案する。28歳まで学問だけにいそしんできた春風は、美しい自然に心を奪われる。あらかじめ平壌に二人が用意した美しい設えの家で、三人は神仙のように優雅に暮らす。ある日、仙女に仮装した二人は、夜美しい笛の音で春風の心を動かす。春風は激しく動揺するが、結局ふたりの「仙女」と愛を誓うことになる。現実に目覚めた春風は、桃花と枝蓮と共に教坊を設立、悪習を断ち風俗の教化に努め、教坊と妓生の地位向上に貢献する。後に三人は、小さな庵で世の栄華とは隔絶した、穏やかな余生を送る。人は彼らを「地上三仙」と呼んだ。