記念誌「奈良の朝鮮学校―奈良同胞100年に向かって」
2020年10月10日 00:00 民族教育 主要ニュース歴史を紐解き、未来を照らす
奈良県商工会結成50周年と奈良朝鮮初中級学校創立50周年(ともに昨年)に際し、記念誌「奈良の朝鮮学校―奈良同胞100年に向かって」が、同校創立記念日の9月12日に発刊された。
「今から千数百年前に私たちの祖先が百済から、そして新羅、高句麗から渡来して飛鳥文化が花開いたこの地に『奈良朝鮮学園』が在り続けるのは歴史の必然なのかもしれません」
このように綴られたプロローグからはじまる記念誌は、全8章からなっており、▼なぜ奈良県に朝鮮半島の人々が住むようになったのか、▼なぜ学校を作ろうとしたのか、▼在日本朝鮮奈良県商工会の結成、▼奈良朝鮮初中級学校の創立、▼奈良朝鮮学校と同胞たちの歩みという草創期からの歴史にとどまらず、▼休校、▼再起動、▼奈良朝鮮幼稚班の復活として、現在の奈良朝鮮幼稚班と同胞たちの取り組みについても綴られている。
数多くの記録や資料、学校建設に関わった人や、教員、卒業生、同胞たちの証言を通して「奈良の朝鮮学校」が紐解かれていく。
編集委員たちの思い
記念誌の編集長を務めたグラフィックデザイナーの高元秀さん(58)は、1982年に朝大を卒業して9年間、奈良初中で美術の教員を勤め、その後も講師として同校の教壇に立った。高さんは「ただの記念本にするのではなく、なぜ奈良に朝鮮学校が建ったのか、なぜ奈良に朝鮮人が住むようになったのかを、紐解いていく本にしたかった」と話す。
「奈良50周年プロジェクト」記念事業の一つとして始まったこの出版事業。編集委員たちは昨年4月から約1年間、資料収集や編集作業に明け暮れた。学校建設に携わった1世たちは高齢で数も少なく、証言収集は簡単ではなかった。写真や資料の収集も難航した。そんな中、草創期の教員・金成憲さん(71)が学校に訪れた。
仮校舎での開校時、同僚教師たち、初期の生徒たちの写真がぎっしりと入った段ボール箱を決して捨てることなく保管してきたという金さん。資料と記憶を頼りに数カ月をかけ、日付、場所、人物を整理したネガをデジタル化。それをDVDに記録し、写真は15冊のアルバムにまとめた。50周年行事の何か役に立てればと、大切な記録をもって奈良ハッキョを訪ねたのだ。
以降、金さんも編集委員に加わり、出版事業はぐんと前に進んだ。
金さんは「69年3月、新任として奈良ハッキョにきた。立派な校舎だと思っていたら、最初は電気もない仮校舎だった。教育会の副会長が懐中電灯を照らして案内してくれたのだが、びっくりした」と振り返る。記念誌ができあがり、先代の校長たちにまっ先に送ったという金さんは、「校長先生たちが感動してくれたとき、やっと肩の荷が下りた」という。
「学籍簿を引っ張り出して、卒業生たちを一人ひとり調べていたとき、涙が出てきた。初期の卒業生たちがいつの頃からか、保護者として登場していた。最近ではその孫が、奈良幼稚班に入園していた」(金さん)
また、奈良の在日朝鮮人研究者・川瀬俊治さんも編集委員として尽力した。第1章の歴史の解説文、資料を執筆し、監修も担った。
川瀬さんは「歴史というのは、記録されない限りは、ないのと同じだといわれる。皆さんの努力によって、奈良の朝鮮学校の歴史が1冊にまとめあげられた。大変すばらしいことだと思う。この本は歴史を紐解くだけでなく、現在の課題も照らし出している。これを通して、奈良の朝鮮学校をさらに盛り上げていけるはずだ」と話した。
朝大資料室や朝鮮新報社、朝鮮商工新聞社など訪ね、新聞の縮小版から資料を集める作業や、創立当時の教員たちを招いての座談会、伊賀の同胞を訪ねインタビューをするなど、コツコツと作業を進めてきた編集委員たち。クラウドファンディングで多くの支援も募り、創立記念日の9月12日、見事、発刊を叶えた。
多文化共生時代にむけて
記念誌の終章「100年の未来に向かって」には、このように綴られている。
「こんな発想があります。奈良ハッキョの運動場で、在日の子らと日本の子らが一緒にスポーツイベントを楽しめないか。奈良ハッキョの講堂で、在日の子らと日本の子らの合同コンサートを開催できないか。奈良ハッキョの一室で、在日のハルモニと日本のおばあさんが一緒に料理を教えあったり、童謡を教えあったりできないか。そうしてお互いをよく知り、認め合って、ともに手を取り合って、楽しく生きていきたいと」
記念誌には、多文化共生の時代、在日同胞と日本市民らが互いの理解と友好を深めていく手助けになればとの思いもこもっている。
現在、奈良県すべての図書館や公民館、日本の高等学校、中学校に本を送る手配が進められている。編集委員たちは多くのマスコミにも協力を呼び掛けているという。記念誌はまたAmazonでも販売されており、その収益はすべて、奈良朝鮮幼稚班の運営にあてるという。
(李鳳仁)