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〈コロナ禍を生きる 1〉飲食業/“この味を広めたい”

2020年07月28日 11:25 主要ニュース

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は、同胞社会にも大きな影響を及ぼしている。連載「コロナ禍を生きる」(月2回連載予定)では、未曽有の状況に直面しながらも、試練を乗り越えようと奮闘する同胞たちを分野別に紹介していく。第1回目の飲食業編では、朝鮮新報社が運営する「トンポグルメNAVI(https://www.tonpogourmetnavi.com/)の掲載店舗を紹介する。※下に各店舗情報あり

五感で楽しめる店に/大阪・お好み焼屋「金のてこ」

JR寺田町駅北口(天王寺区)から徒歩3分、白地の看板に金色の文字がひときわ目立つ。お好み焼屋「金のてこ」だ。暖簾をくぐると、金賢一店長(38)が迎えてくれた。

おすすめメニューの一つである「金てこスペシャル」を注文。自ら厨房に立つ金店長は、熱せられた鉄板に油をひき、リズミカルなてこさばきで生地と具を焼き上げていく。

ソースをかけて出来上がりかと思いきや、ここからが見どころ。店長渾身のマヨネーズアートだ。

マヨネーズアートはお客のリクエストにも対応

香ばしい香りのお好み焼きを口に運ぶ。ホロっと崩れる牛スジ、大ぶりのコンニャクやジャガイモに、ネギの風味が見事にマッチしている。なんといってもプリプリの油かす(牛の小腸を素揚げしたもの)が旨さをいっそう際立てている。キムチともよく合う逸品だ。

大阪朝高出身の店長は、朝高2年時から叔父が営むお好み焼屋でアルバイトをはじめ、18歳でその店に就職。バイト時代から数えて20年間、修業を積んだ。「どうせやるなら自分の店を」―。昨年2月、ついにその夢を叶えた。

「お好み焼屋の特徴は客層が広いこと。大人も子どもも皆が楽しめる店、五感をフルに楽しめる店を作りたかった」。そんな店長のこだわりは、あらゆるところに表れている。

前述のマヨネーズアートもそのひとつ。100種類以上あるメニューは「何回来ても楽しめるように」という思いから。店内を彩るさまざまなポップは、得意の絵を活かして自ら手がけている。さらに「60回来店したら名前入りの金のてこをプレゼント」というポイントカードも配っている。

売り上げは開店当初から上々で、店内に5つある4人掛けのテーブルは週末になると予約でいっぱいに。繁盛ぶりはテレビでも紹介された。

そんな中、コロナウィルスの影響を受けた。「地獄だった。収入が間に合わないので、休業はできなかった」。4月は売り上げが半減。平常時は平日23時(日・祝23時半)まで店を開けていたが、緊急事態宣言後は府の方針によって20時までしか営業できず、夕食時の客を十分に受け入れられなかった。限られた時間の中で注文が殺到し、客を待たせてしまうこともあった。それでも開店当初からテイクアウトやデリバリー対応をしていたことで、どうにか難を逃れられたという。

テイクアウトをしてくれる常連客の中には同胞たちもいた。「ソンベ(先輩)やトンムたちが、『頑張れよ』とたくさん注文してくれたり、会計以上のお金を出してくれたこともあった」。苦境に屈することなく、デリバリーの質向上、より良い接客のための社員教育に力を注ぐなど、「やるべきことをコツコツ積み重ねられた」。

日本一のお好み焼屋を目指す金賢一店長、その手には「金のてこ」が

「大変だったけれど、いい経験になった」と話す金店長は、本紙の読者に向けてこう語った。

「お好み焼きは日本のソウルフード。でも、在日朝鮮人の私がいちばんおいしいものを作ります。本店へ是非いらしてください。最大限のサービスでお迎えします」

(李鳳仁)

ピンチをチャンスに/福岡・居酒屋「韓FUll」

九州中高の最寄り駅、JR折尾駅(北九州市)から徒歩1分に位置する居酒屋「韓FUll」は今年でオープン12年目を迎えた。店主の崔炳智さん(43、朝大外国語学部卒)は、「オモニが作るおいしい味をもっと多くの人々に味わってもらいたい」という思いから店を立ち上げ、母の手作りである特製タレで味付けした、甘辛いヤンコプチャンを看板メニューにして店を切り盛りしてきた。

九州青商会の「新春の集い」(写真)など多くの同胞たちが韓FUIIを利用している

折尾駅周辺の居酒屋で1番大きな同店には最大80人の客が入る。普段は遠賀や八幡の地域同胞たちはもちろん、主に20~50代の会社員が利用しており、週末は団体客でにぎわいを見せている。しかし、歓送迎会シーズンにはコロナウィルスが猛威を振るい、緊急事態宣言が発令された4月には休業を余儀なくされた。

「売り上げは90%減まで落ち込んだ。国の支援策はすべて利用したが、月々の家賃や人件費など固定費の支払いを考えると、助成金や補助金の額は雀の涙程度だった」。周囲の飲食店は弁当のテイクアウトやデリバリーサービスなどを導入していったが、「一夜漬けの方法では適わない」と同店では行わなかった。

そんな中「在宅の時間が多ければ、家で料理することも増える」と力を入れたのが、以前から行っていたヤンコプチャンの販売・配送事業だ。この間には店頭でのテイクアウト、各地への配送に本格的に取り組んできた。「コロナ禍は団体客頼りだった意識を変えるきっかけとなった」と崔さんは話す。

コロナ禍で「新たな気づきを得た」と話す崔炳智店長

緊急事態宣言の解除後、お店は段階的に営業を再開したが客足は遠のくばかり。また折尾駅の拡張・開発に伴い、同店は来年度までの立ち退きが決まっている。このコロナ禍の影響で立ち退きの時期は不透明だ。「ただ歯を食いしばって待つしかない」。

それでも地域の同年代の同胞たちが、店を気にかけて料理とお酒をたしなみに来てくれたという。「本当にありがたかった。自粛期間中には飲食店を経営する同胞たちと情報を共有するなどした。困った時こそ、同胞たちとのつながりの大切さを身に染みて実感した」。

崔さんは「コロナ禍は商売に関するさまざまなことに気づかせてくれた。これをチャンスととらえて、働き方を変えていかないといければ」と前を見据えている。

「立ち退きなどの問題もあるが、これからもお店を何らかの形で残していきたい。店の営業はもちろん、ヤンコプチャンの販売・発送をSNSやインターネットを利用してどんどん広めていくことに力を入れていきたい」

(全基一)

店舗情報

お好み焼き屋「金のてこ」

  • 住所:大阪府大阪市天王寺区大道4-1-5
  • 電話番号:06-6771-0315
  • メニュー:金てこスペシャル1,280円、アボトマチーズ980円、いかと明太子の焼きそば930円など※テイクアウト、出前対応可、ウーバーイーツ対応
  • 営業時間:【火~金】11:30~14:30(L.O.14:00)/17:00~22:30(L.O.22:00)、【土】11:30~22:30(L.O.22:00)、【日・祝】11:30~21:00(L.O.21:00)
  • 定休日:月曜、祝日の場合は翌日振替
  • HP:https://localplace.jp/sp/t200484800/

居酒屋「韓FUll」

  • 住所:福岡県北九州市八幡西区堀川町1-18
  • 電話番号: 093-883-8367
  • メニュー:ヤンコプチャン2~3人前2,700円、チルドヤンコプチャン(テイクアウト)1パック350グラム2500円 ※地方配送4パック1万円(チルド代無料、全国送料一律)など
  • 営業時間:【月〜木、日】18:00〜23:00、【金、土曜】18:00〜24:00 ※不定休
  • HP:https://karafull.theshop.jp/

※コロナウイルス感染拡大状況や店舗の事情により、各種サービスや営業時間を変更することがあります。

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