さいたま市、朝鮮幼稚園へのマスク不配布/抗議の声に再考示す
2020年03月12日 09:21 民族教育さいたま市が市の備蓄用マスクの配布を決め、市内幼稚園、保育園などの職員向けに9日から配布をはじめた。その対象から埼玉朝鮮幼稚園が外されたことについて11日、在日本朝鮮人人権協会(人権協会)の金奉吉会長、埼玉朝鮮幼稚園の朴洋子園長など関係者たちが市役所を訪れ緊急抗議行動を行った。
約4時間に及ぶ抗議後、担当局である市子ども未来局の局長は「抗議文を精査し再検討する」と明言。関係者たちは、今日も引き続き市役所に出向き、朝鮮幼稚園を対象に含むよう抗議する予定だ。
目的は感染防止、なのに除外?
11日午後3時、さいたま市役所の1階ロビーには、市に抗議しようと約20人が駆け付けた。
「子どもの命の問題」―。集まった関係者たちはそう声を合わせ、市の行った不当な措置に憤りをあらわにし、保育所や幼稚園などへのマスク配布について管轄する子ども未来局へ出向いた。同局からは、幼児未来部部長、幼児未来部幼児政策課課長らが対応した。
はじめに、人権協会の金奉吉会長が抗議文を読み上げた。
さいたま市長宛の抗議文では、市が新型コロナウイルスの感染防止措置として、①放課後児童クラブ、②認可保育所、③認定子ども園、④私立幼稚園、⑤小規模保育事業所、⑥事業所内保育事業所、⑦認可外保育施設、⑧障害児通所支援所、以上8区分の子ども関連施設について、職員用マスクの配布を始めたにもかかわらず、各種学校認可の埼玉朝鮮初中級学校(幼稚部併設)は含まれなかったとしたうえで、この措置が「人権上、また人道上も到底看過できない許し難い行為」と指摘。(市内にある各種学校の幼児教育施設は埼玉朝鮮幼稚園のみとなる。)
またさいたま市が、2014年3月に発表した「国際化推進基本計画」で「外国人市民も暮らしやすいまちづくりを目指し、互いの文化や習慣の違いを認め合い、対等な関係を築こう」などと多文化共生の社会づくりについて宣言していることに言及しながら「朝鮮幼稚園排除はこの精神に明らかに反する」と非難した。その上で、現在の措置を撤回し、早急に配布対象に埼玉朝鮮幼稚園を含むよう強く求めた。
その後、金舜植弁護士や人権協会の金東鶴事務局長、埼玉初中教育会理事の金範重理事らが、対象外とした経緯や理由について「配布の目的は感染防止なのになぜ朝鮮学校は除外されるのか」などと担当職員らに問いただした。
そのなかで、「対象外とした理由は不適切に使用された場合、指導ができないということだが、配布した施設がマスクをどのように使用したのかについて、何か報告をさせるのか」という質問に対し、担当職員は「報告はないです」と返答。また担当職員が「マスクについて、認可保育所、幼稚園など市の指導監督施設を対象に配布を決めた」と発言すると、関係者たちは「今回対象には監督官庁が県庁である私立幼稚園などの施設も含まれている。『指導監督施設に該当しないため、マスクが不適切に使用された場合、指導できない』という理由は、本来であれば、そのほか県の指導監督施設にも該当するもの。(不配布を決める)理由になってない」と疑問を呈した。また今回のマスク配布について、「これは市長決裁までとる案件なのか」との質問には「それぞれの担当局で決裁をとり、子どもの施設については、子ども未来局内で決裁をしている」と発言し、決裁権限が同局にあることを示した。
子どもの命の問題
終始不誠実な対応を見せた市に対し、この日集まった関係者たちからの批判の声はとどまることを知らなかった。
朴洋子園長は「市の決定があまりにも不服で言葉が出なかった。電話を切りながら怒りで体が震えた」と話し「10月に幼稚園を訪れた際、施設設備が整っていることは確認したはずだ。差別していないというが本質的に差別ではないか」と紛糾した。
また金舜植弁護士は「設備をみて子どもたちを対象にしないとなれば何か感じることはないのか。本来あるべき行政の姿は、いかにその児童たちを対象にし感染防止策を講じるのか、それを考えることではないか」と指摘した。
人権協会の金東鶴事務局長は、今から7年前、東京都町田市が政治的情勢を理由に、西東京朝鮮第2初中に通う児童らに対し防犯ブザーの配布を取りやめた事件に言及。当時「子どもの身の安全まで差別するのか」など批判が相次ぎ、市側がすぐに撤回をしたことに触れた金事務局長は「一番に公正中立であるべき行政が、なぜそうでないのか。こんなことは許されない。子どもの命にかかわる問題だ」と、繰り返し不当性を強調した。
さらに、埼玉初中の金範重理事は「埼玉朝鮮幼稚園は児童が41人、職員が5人。一般的にそれほどの施設には何枚配るのか」と質問。すると担当職員は「認可外保育施設の小規模施設については、マスク一箱を配布している」と返答。金理事は「一箱の数はそれほど多くないはずだ。何万枚のうち、その一箱が配布できないというのか」と問い詰めた。
不適切発言を謝罪
「なんで除外されたか教えてほしい。基準がわからない」。乳児を抱えながら抗議を共にした朴仙華さん(38)は同園の年少組にわが子を送る一人。朴さんは「措置の撤回を求められて、修正する・検討すると言えない理由はなにか」とこみあげる怒りを抑えきれない様子だった。
同じく同園保護者の鄭悠理さん(36)は、「この措置によって感染が拡大すればどう措置をとるつもりか。公には差別や虐待のない国をつくっていこうと言いながら、こっそり裏で大人たちが差別するなんて矛盾ではないか」とし、同園年少組に娘を送る金英玉さん(33)も「意図的な除外なのか」と怒りを示した。
「幼保無償化を求める埼玉朝鮮幼稚園保護者連絡会」の共同代表で同園保護者の金初美さん(43)は「もしうちの幼稚園でコロナが発生した場合、子どもがかかれば親も感染のリスクがある。親が公共機関を利用し通勤すれば感染は拡大する。この緊急事態のなか、日本では感染拡大を防ごうと、小中高休校や在宅ワークなど国の方針に従い皆行動している。それなのに感染を拡大させかねない市の行動、発言はどういうことか」と批判した。
また関係者たちは、担当職員が、幼保無償化の対象をもとに配布基準を設けた旨について発言したことを受け、「国は休業保障を各種学校を含め行うとしたが、国の方針とも違うではないか」と憤りを示した。
約3時間、関係者たちは子ども未来局の窓口で抗議をし、その後も、この措置の決裁をした同局局長に会うため、記者会見場の入り口で抗議を続けた。
会見場から出てきた局長は、「抗議文を精査し検討する」と明言。午後7時過ぎ、約4時間に及ぶ抗議行動は終了した。
「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク・埼玉」の斎藤紀代美代表は、抗議行動に同席しながら「ひどい対応だ。指導管理云々話していたが法的根拠は何もない。あのような形で除外するのは差別であり、危機管理対策の面でもなってない。このような緊急事態には、日本に暮らすあらゆる人々を助けなくてはならない。それは当然のことだ」とし「これ以上大事にならないうちに、対応を考えてほしい」と訴えた。
朴洋子園長は「今回の市の措置は私たちの朝鮮人としての尊厳を著しく傷つけるもの。マスク何枚の問題ではない。子どもの命に関わる問題である以上対応が間違っているということだ」と改めて問題の核心を指摘した。
一方、11日の抗議行動では、前日に朴園長の電話に応対した職員が、転売など不適切にマスクが使用される旨の発言をしたことについて、市の担当職員らが認め謝罪した。
(韓賢珠)
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