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〈それぞれの四季〉ドイツの原風景/李勇燦

2020年03月02日 10:36 コラム

ドイツに来てから、原風景、つまり育ち慣れ親しんだ風景の違いについて考える。

千葉と東京で育った私にとって、原風景といえば、団地、郊外のショッピングモール、明るい広告とビルの夜景、人にあふれた駅、通学電車などだ。ドイツの風景はこれとは違う。研究所があるフランクフルト北部の大学区は畑に囲まれていて、北にはタウヌス山が見える。市中心部に行くとビルが多くなるが、多くの緑が残されている。森の中に都市があるかのようだ。ドイツで育った人たちの原風景は山や森が入った風景なのだろう。

同僚との会話でも気づく。昨日はキノコ狩りに行ったとか、野いちごを摘みすぎたからジャムにしたとか、そろそろチェリーがなる季節だねとか。生活の中に自然があり、都会の人が癒しを求めて時々田舎に行く感覚とは違う。

この違いは研究への考え方の違いも生んでいるようだ。東京では、発展する都市を追うように、分秒を惜しんで研究をする。研究成果を他人との比較の中で評価する。一方こちらでは、自然の仕組みはどうなっているかという本質的な問いを追求できる空気がある。

先日、日本からの来客とライン川クルーズに行った際、ドイツの原風景を十分に味わった。ぶどう畑から出発し、船上で白ワインを飲みながら、ゆっくりと横に流れる平原の風景を楽しんだ。ドイツに来て、自然の法則と向き合う時間が増えたことを改めて感じた。

(ドイツ在住、博士研究員)

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