同胞たちへの影響と対応について/新型コロナウイルス、同胞医師に聴く
2020年02月19日 21:24 主要ニュース 権利新型コロナウイルスに関連した感染症が、中国だけでなく日本やアジア各地、アメリカ、フランス、オーストラリアなどでも確認され、深刻な様相を呈している。同胞たちへの影響と、対応について東京都足立区・あさひ病院の同胞医師に話を聴いた。
新型コロナウイルスはどのような感染症なのか?
人に感染症を引き起こすコロナウイルスはこれまで6種類が知られていましたが、深刻な呼吸器疾患を引き起こすことがあるSARS(重症急性呼吸器症候群)およびMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス以外は、感染しても通常の風邪としてとくに重症でない症状にとどまっていました。すなわち、これまでも一般の風邪ウィルスとして日本にも存在していました。今回の新型コロナウイルス感染症は2019年12月から中国湖北省武漢市において同ウィルス関連肺炎が多発し死亡者も出たことから注目され始めました。ようやく2020年1月下旬になって重大な問題として国際的に認知されるようになりました。
武漢市内の食用野生動物を取りあつかっている市場でウィルスが蔓延したらしく、今のところコウモリが宿主動物からヒトへ媒介したのではないかといわれています。外来遺伝子の獲得や突然変異によりウイルスの病原性が高まった可能性があると考えられています。
主な症状
はじめは発熱、咳、筋肉痛や倦怠感といったインフルエンザに似た症状がみられます。その他喀痰や頭痛なども伴うことがあるとのことですが、肺炎を起こしやすく重症化すれば呼吸困難におちいります。とくに高齢者や免疫不全患者、心呼吸器疾患などの基礎疾患がある人は重症化の危険度が高いと考えられます。
ウイルスを有していても症状はないが感染力はある例が存在するとのことですが、どの程度のものなのかを含めて、対応については今後の課題と思われます。
感染が疑われる場合
- 発熱、呼吸器症状があって新型コロナウイルス感染症者と濃厚接触歴のある者
- 発症14日以内に対象地域(中華人民共和国湖北省、ただし今後変更される場合がある)に渡航または居住していた者
- 病状から新型コロナウイルス感染症の鑑別が必要と医師が判断した者
以上に該当する人については保健所に設置された帰国者・接触者電話相談センターにまず連絡することになっています。現状では一般医療機関では直接には対応していません。
予防法について
コロナウイルスの感染経路は咳やくしゃみなどで飛び散ったウイルスを含む唾液や鼻水などを吸い込む「飛沫感染」が主たるもので、感染者からのウイルスが付着したものを手で触り(机・食卓、ドアノブ,寝台柵、蛇口、マスクなど)、その汚染された手で口や目、鼻の中を触ることにより体内にウィルスが入り込んで感染する「接触感染」もあります。
発熱や咳のある人に密接に接触しないことが予防の基本ですが、ただすれちがっただけ、たまたま同じ空間にいた程度で感染することはまず考えられません。
日常での予防で最も重要なのはまめな手洗いです。アルコール洗浄剤かせっけんを使って水で頻繁に手を洗うことが奨められています。理想的な洗い方ですが、手を濡らしてせっけんをつけ、手の甲や指の間、爪の中もよく洗い、少なくとも20秒間こすり洗いをした後に流水で洗い流します。うがいも有効で、まず口の中を一度水ですすいだ後でのどの奥のうがいをするのがよいでしょう。
マスクは風邪(コロナウイルス・インフルエンザを含む)や肺炎などで咳・くしゃみがある人が飛沫を飛ばして他人に感染させる危険を減らすのが主な使用目的です。一般に市販されているマスクではウイルスを含んだ飛沫粒子が通り抜けるので、日常的には感染防止効果は望めません。また、途中でマスク内に捕捉されたり表面に付着したウィルスを素手で触って感染がむしろ広がることもあり得ます。また、マスクをしても鼻が出ていたり、一時的にせよあごの下にマスクをずらしていたり、装着面が密着していなかったりするとむしろ逆効果となります。
とくに小児においてはマスクを正しく扱わないことが多いので、十分な指導が求められます。
どうしても気になるというのであれば、満員電車内や劇場・駅構内などの人込みにおいては一時的にマスクをきちんと着用し、すぐに破棄するという方法でもよいと思われます。ただしマスクの本体部分にはウィルスが付着している可能性があるので、取り外しの際には耳元から外すよう気をつけてください。
身近な人が感染したらどうする?
疑わしい症状が出たら、先に述べた保健所への相談が先決です。その間、他の人にうつさないためにマスク着用を徹底して、家族との接触を避けるため別の部屋で過ごすよう手配してください。もちろん、家族も手洗いとうがいをきちんと行う必要があります。また、感染者が触ったところから感染する可能性があるので、その点抜かりなく対応しなければなりません。医療機関への移動は公共交通機関ではなく自家用車が望ましいです。
今後も拡大するのか
2月19日現在、日本ではすでに感染経路の追えない国内感染が複数例報告されています。あるいは院内感染と考えられる事例もあり、本ウイルスによる感染が新たな局面に入ったと認識されています。しばらくはこの調子で全国に流行が拡大する可能性が高いので、とくに体力のない高齢者や幼児は注意が必要です。
新型コロナウイルス流行に伴う人種差別問題
かねてから筆者はこの問題を危惧していました。ご存じのように、1923年関東大震災の際「朝鮮人が井戸に毒を入れている」といううわさが飛び交い、これを真に受けた地域住民たちが自警団を結成し、多くの朝鮮人や中国人を虐殺しました。
今回のウイルス騒動の中、日本各地の観光地や店舗で「中国人お断り」や「中国人入店禁止」といったたぐいの張り紙や通達がみられた、との報道を耳にしました。また、中国・武漢からの帰国のため日本のチャーター飛行機に家族・配偶者として中国人が同乗していることに対して疑問を投げかけるネットの声が少なからずある、とのことです。ごく一部の人々とはいえ、根底にある中国人に対する差別・憎悪意識が「中国で新型コロナウイルス感染が始まった」という大義名分のもと、世間に堂々と表出されたということに、いまさらながら愕然としました。同時に、とりわけ医学においては客観的で正確な情報がいかに大事であるか、そしてそれを広く社会に認識させる必要性を改めて痛感しました。
自然大災害が起きた時、あるいは今回のような難病がはやった時こそ、世界中が協力して英知を集め立ち向かうことをだれもが願っているはずです。
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ウイルスによる感染との戦いにおいて、人間は真の勝者にはなることはできません。感染蔓延が一時的には収まっても、人間がウイルスを敵視して戦えば戦うほどウイルスは変化し、時には新種のウイルスが登場して同じようなことが繰り返されます。そして多くの場合、変化によって感染力が強まり、病原性が強まることはこれまでの歴史が物語っています。換言すれば、それはウイルスそのものにとって当然の生き残り戦略です。彼らは人間という格好の住処を得て、生き残るために必死なのです。
ご存じのように、細菌感染治療に使われる抗生物質はウィルスには効果がありません。対策としてワクチン接種が行われていますが、すぐに生成できるものでもないし、作ってもまた新たなウィルスが出現すれば、いたちごっこになってしまいます。今の社会は、やれ除菌だ消臭だ、などといって清潔志向がやたら強くなっています。しかし、それよりも大切なことは個々人の免疫力すなわちウイルスと戦う力を身につけることです。いくら排除しようとしても、これら病原微生物とは共生せざるを得ないわけですから、人としてはきちんと食事と運動をして体力を維持し、精神的ストレスを減らす工夫をして、また同時に社会全体としてより良い衛生環境を作り出す努力をすべきだと思います。
(あさひ病院班(在日本朝鮮人医学協会))