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〈取材ノート〉「いい映画」だった?

2019年04月03日 11:07 コラム

今年のアカデミー作品賞受賞作「グリーンブック」を観た。黒人ピアニストとイタリア系白人の用心棒が、1960年代の南部アメリカをツアーで周りながら、絆を深めていく。感想は一言で「あぁ、良い映画だった」。映画館では観客が何度も笑い声を上げており、筆者も2人のやりとりに思わず口元が緩んだ。家族や恋人と観るにはもってこいの作品だ。しかし、この作品がオスカーを獲得したことについては、残念という他なかった。

3月に新宿で行われた「3・1独立運動100周年キャンドル集会」。その傍では、排外主義者たちが集会を妨害しようとしていた。「朝鮮人はゴミ。クズ。ゴキブリ以下」。公然と行われるヘイトを前に、笑っている人など誰もいなかった。笑っていたのは、集会を終え満足気に帰ろうとする排外主義者その人たちだけだった。

米国でも未だに黒人に対する深刻な差別、迫害が続き、ニュージーランドのモスクでは、差別主義者による銃乱射で50人が犠牲になったばかり。そんな現実に対し、世界中の注目が集まる映画賞受賞作のメッセージが「お互いを知れば差別はなくなる」では、あまりにナイーブではないだろうか。「変わらないな」。劇場を出る時にはそう感じていた。

社会問題を扱う作品は、「観客ウケ」と内容の深さのバランスをどう整えるかが難しい。本作は観客に寄りすぎた気がした。鑑賞後はそんな後味の悪さからか、何となくフライドチキンが食べたくなった。

(孝)

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