〈勝訴に向かって/無償化・補助金裁判の今 9〉東京無償化裁判、9月13日に判決
2017年05月27日 10:12 主要ニュース愛知は秋に証人尋問
62人の東京朝鮮高級学校生が提訴した東京無償化裁判が5月16日、ついに結審の日を迎え、9月13日の14時に判決が言い渡されることが決まった。また、愛知無償化裁判第23回口頭弁論が15日、名古屋地裁で開かれ、原告側弁護団は準備書面25、26、27を提出した。(月刊「イオ」編集部)
東京無償化裁判
第14回口頭弁論/原告の勇気、たたえ
11時から開廷した東京無償化裁判第14回口頭弁論は「弁論を終結します」という裁判長の発言に続き、判決の期日が発表された。
2014年2月に提訴、同年4月2日から始まった口頭弁論はいくつかの山があった。まず10月1日の第3回口頭弁論では、原告の朝高生2人が意見を陳述。原告の顔が見えないよう遮へい措置が取られるなか、元朝高生の2人が学ぶ権利を奪われた悔しさと裁判に挑む決意を切々と伝えた。
この裁判で国側が言ってきたのは、不指定になった責任は朝鮮学校側にあるということ。しかし、それが「事実ではない」ことを完ぷなきまで反論したのが東京弁護団の功績だろう。
東京弁護団は、「文科省が、規定ハを削除したのは無償化法に照らして違法」という一点に絞り、闘ってきた。まずは、文科省の内部文書の開示を請求。開示された文書を通じて、文科省が拉致問題を口実にして朝鮮高校を排除したこと、朝高排除のために規定ハを削除したことを明らかにした(第9回口頭弁論、16年3月2日)。さらに文科省役人の証人尋問が実現したことで、国の主張は大きく崩れた(第12回口頭弁論、16年12月13日)。国側は朝鮮高校不指定の理由を「規定13条に適合するに至らなかった」としていたが、その主張は後付けで、朝鮮学校を外すために規定ハを外したことが判明したのだ。
「規定ハの削除による朝高排除は、政治的外交的配慮にもとづいてなされたもので、高校無償化法の下では違法。私たちが求めているのは、国会が制定した法律の正当な解釈であり、これを行うのは裁判所だ。裁判所が通常の解釈をしていただきたい」―。前回の第13回口頭弁論で喜田村洋一弁護団長が述べた通り、文科省が法律の趣旨をねじまげ、朝高生の学ぶ権利を奪った事実を、日本の裁判所が直視し審判を下せば原告勝訴は間違いない。
参院議員会館で行われた報告集会では、4人の弁護士が登壇し、3年3ヵ月にわたる裁判を振り返った。初めて担当した事件が京都朝鮮学校襲撃裁判だったという康仙華弁護士は、「在特会が行ったことは、朝鮮民主主義人民共和国や総聯を支持する朝鮮学校に対しては何をしてもいいということだった。無償化から朝鮮高級学校を排除した国の真の理由もそこにあると思っている。このことが許せないという思いで裁判を闘ってきた」と話した。また、金舜植弁護士は、「試されているのは、法律を誠実に執行する義務を怠った行政の在り方。この裁判を通じて、審判の対象は国の行いだと示すことができた」と振り返った。
「裁判を始めた当初は、なぜ子どもが矢面に立たなくてはならないのかという思いばかりでした。けれども、裁判を重ねるなかで、この裁判は絶対負けられないと思えるようになった。このように思えたのも、子どもたちが原告になってくれたからこそ。自分たちが歴史を変えると勇気を出し、第一歩を踏み出してくれた。原告の子どもたちに感謝したい」。第3回口頭弁論で意見陳述に立った女子生徒の母親はこう話していた。
報告集会を盛りあげたのは、東京朝高美術部の生徒たち。白いビニール傘で顔を隠しながら、無償化から自分たちをはじいたこの社会の「理不尽」を訴えていく。最後は、朝鮮学校と日本社会の間の壁を取り払うように、傘を閉じ全員の顔を見せるパフォーマンスで、「ガッツだぜ!」と力強く呼びかけた。
長谷川和男・共同代表は、9月13日の判決の日を、「歓喜の大集会」にしようと呼びかけ、200人を超える人たちで法廷を埋め、抗議の意思を示そうと語った。
愛知無償化裁判
第23回口頭弁論/国の行為は違憲、不合理
愛知無償化裁判の第23回口頭弁論が5月15日、名古屋地裁で開かれ、愛知朝鮮中高級学校の高級部2年生、同胞、支援者ら151人が傍聴券を求めて列をなした。原告側弁護団は準備書面25、26、27を提出。法廷では中島万里弁護士が準備書面27の要旨を陳述した。
準備書面27は、朝鮮学校を無償化制度から除外した国の行為が、平等権を定めた憲法14条に違反するということを指摘した内容だ。中島弁護士はまず憲法14条1項にある「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」という条文を確認。その上で、「仮に国に差別意識がなく、別の目的で朝鮮学校を排除したのだとしても、その行為は憲法14条1項に違反している」と強調した。
弁護団は、過去に準備書面17で「国が差別感情にもとづいて朝鮮学校だけを無償化制度から排除したことは違憲だ」と主張している。しかし、これに対して国が「差別ではない」と反論したため、この度の主張に至った。憲法14条には、ある対象を他の対象と「区別」するのであれば、それが合理的な区別でなくてはならないという趣旨が込められている。
中島弁護士は、国が朝鮮学校の生徒のみを制度から除外した過程を分析的に4つに分け、それぞれに不合理な点があると指摘した。4つの過程とは、▼愛知朝鮮学園が就学支援金を支給するに値するかどうかの審査申請を行ったにも関わらず実質的に審査を開始しなかった▼期間を必要以上に引き延ばし、審査を遅延させた▼朝鮮高校生が就学支援金の支給を受けるために必要な根拠となる省令ハを削除した▼朝鮮学校を就学支援金支給対象校として指定しない決定を下した(不指定処分)―だ。
審査を開始しなかった点において、国は「審査会のメンバーが延坪島事件の発生で報道や世論に影響され、公正な審査を行わない懸念があるため」と説明している。これに対し弁護団は、無償化法の関連法令ではそもそも不公正な審査が行われないようにする仕組みを設けているため審査を止める必要がなかったとしながら、よって審査を止めた目的(理由)の面からも審査を止めたという手段の面からも、国の行為は不合理だと主張した。
また省令ハを削除した点において、国は、「ハに基づいて支給を求めている学校がなかった」という旨の主張をしている。中島弁護士は、「朝鮮学校は一貫して就学支援金の支給を申請しているため、国の主張は明らかな虚偽だ」と訴えた。他にも挙げられた、「省令の内容に欠陥があった」という旨の国の主張にも矛盾があり、こちらも虚偽だとした上で、「万が一、欠陥があったとしても省令ハを改定すれば解決するのではないか。削除はどう見ても過剰な手段であり、やはり国のいう目的、手段いずれにおいても不合理だ」と国を追いつめた。
報告集会では、新しく弁護団に加わった吉田悟、青木有加の両弁護士が紹介された。無償化弁護団の裵明玉事務局長は、愛知でも今後、証人尋問が行われると発言。期日は今年9月13日を予定しており、次回7月12日の第24回口頭弁論で証人の採否などが確定するとのこと。支援者たちにさらなる関心を呼びかけた。
無償化裁判Q&A「Q. なぜ学校ではなく生徒が原告になる必要があるの?」
A. 権利を侵害された当事者だから
就学支援金は、家庭の経済状況にかかわらず安心して勉強できるように授業料を支給する制度です。支援金を受け取ることができるのは生徒の皆さんです。
「高校無償化」法は、生徒が国から就学支援金を受け取り、それを学校に支払うという手続きを簡便にするため、生徒の就学支援金を学校が生徒に代理して受領することができる、としているにすぎません。
従って、権利の主体は一人ひとりの生徒です。もちろん文部科学大臣が朝高を就学支援金制度が適用される学校として指定しなかったので、この不指定の違法を争う第一の主体となるのは朝高です。しかし、学校がこの指定を受けないことにより、権利を侵害されるのは生徒の皆さんにほかなりません。しかも、生徒の皆さんは就学支援金を受け取れないだけでなく、同時に学習権や平等権という重大な権利を同時に侵害されることになります。生徒の皆さんが原告になることは、とても自然なことなのです。
また、生徒のみなさんが原告になることにより、裁判所に問題をストレートに伝えることができます。
裁判所は、当事者である原告の声を無視できません。生徒の痛切な声は裁判所に伝わります。また、この問題は、社会的な問題も含むので、権利侵害を受ける生徒が原告になり、声を上げることにより、世論や政治も動かしやすくなるといえます。
(平田かおり・広島「無償化」裁判弁護団)
今後の裁判日程
- 九州無償化裁判第13回口頭弁論:5月25日(木)14時~ 福岡地裁小倉支部
- 愛知無償化裁判第24回口頭弁論:7月12日(水)14時~ 名古屋地裁
- 広島無償化裁判判決言い渡し:7月19日(水)16時~ 広島地裁
- 大阪無償化裁判判決言い渡し:7月28日(金)11時~ 大阪地裁
- 東京無償化裁判判決言い渡し:9月13日(水)14時~ 東京地裁
(朝鮮新報)
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