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〈くらしの周辺〉「社会大学」出のアボジ/韓哲秀

2017年04月03日 10:46 コラム

父は僕の思い込みや先入観をよく覆す人だった。大阪城には侍が住んでいると本気で思い込んでいた幼い頃、天守閣を見上げながら「アボジ、豊臣秀吉は偉い人なんやろ?」と聞くと「あいつはあかん。ウリナラでどれだけ悪いことして来たか。欲張りのボケや」とまるで同時代の人間に文句を言うかのような口ぶりだったのを今も覚えている。

映画「ロッキー」を観た帰りもそうだ。「ロッキー凄いな!」と興奮する僕を「黒人が負けるのを見て嬉しいのか。黒人はチョソンサラムより苦労してきた人たちなんや。黒人が負ける映画で喜ぶのは感心できん」と叱られた。テンションは急降下したが、妙にグサリと刺さる印象的な出来事だった。

家の本棚に「毛沢東語録」があったので「毛沢東より金日成元帥の方が偉いやろ?」と聞いたら「中国人かチョソンサラムか、どの立場で考えるかによって『偉さ』は違うんや」。これにはさすがにその場で納得したものだ。

幼い頃、済州島から大阪に渡って来て小学校にすらろくに通えず、苦労に苦労を重ねて来た父は「俺は社会と言う名の大学を出た。だから『社会大学』出身や」が口ぐせだった。母曰く総聯の様々な学習会に通い始めて変わっていったのだという。ふと気づくと、僕も息子に父のような口ぶりで説教していることがある。(東京都在住)

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