〈民族教育と歌 10〉音楽で育む「民族」の感性―音楽教科書と「民謡」/金理花
2017年04月17日 10:50 コラム満開の桜の下、もうもうと立ち上がる七輪の煙を囲んでの踊りの輪(チュムパン)。身をゆだねる音楽は《밀양아리랑(密陽アリラン)》や《도라지(トラジ)》だろうか。同胞が集う種々の宴ではあまりに見慣れたお馴染みの光景でもある。
朝鮮民謡が情緒教育を担う教材として、朝鮮学校の音楽教科書に掲載され始めたのは1980年代。これは前回紹介した朝鮮学校の校歌が創られていく時期とも重なるが、この時期は朝鮮学校における音楽教育が70年代までの様式から徐々に変化しはじめる地点として注目される。
朝鮮学校に通う児童・生徒の世代交代が推移していた当時、教育者たちは、日本で生まれ育つ幼い2世、3世たちに向けて、これからの民族教育が育むべきものが何なのかについて議論を重ねていた。音楽教科書の編纂に携わった教員たちの間では、子どもたちが朝鮮の民族文化に親しみを感じる感性を育てたいとの思いから、朝鮮民謡を形づくるリズムであるチャンダン(長短)を取り入れた教材の工夫が進められた。そして、83年版の音楽教科書の全学年(初〜中級)に、1曲以上の朝鮮民謡が取り入れられることになった。